児童生徒から希死念慮が語られたとき、必要な情報を丁寧に聴き取ることで、
自殺リスクを評価し、状況に応じた適切な対応につなげることができます。
このコラムでは、リスク評価の視点として、
「自殺の対人関係理論」と「自殺の計画性と準備性」について解説します。
配慮ある表現を心がけていますが、読んでいて疲れを感じた場合は、無理をせず、休みながら少しずつ読み進めてください。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 自殺の対人関係理論
18〜29歳を対象にした調査(日本財団,2022年)では、
「希死念慮をもった経験がある人」は 44.8% と報告されています。
とても高い割合に感じられるかもしれません。
しかし、希死念慮を抱いたすべての人が自殺企図に至るわけではありません。
その理由として、多くの人に共通すると言われているのが、
死に対する恐怖感や、自分の身体を傷つけることへの抵抗感です。
ここに注目したのが、トーマス・ジョイナーの「自殺の対人関係理論」です。
この理論では、自殺を行動に移す人の多くは、恐怖感や抵抗感が低い状態にあると考えられています。
そして、その状態を「身につけた自殺潜在能力」と呼びます。
また、死にたいという気持ちは、
「所属感の減弱」と「負担感の知覚」の二つが重なったときに生じるとされています。
図と式で表すと、

「所属感の減弱」+「負担感の知覚」= 自殺願望
「身につけた自殺潜在能力」+ 自殺願望 = 自殺リスクが非常に高い
「所属感の減弱」+「負担感の知覚」= 自殺願望
「身につけた自殺潜在能力」+ 自殺願望 = 自殺リスクが非常に高い
それでは、これら三つの要素を一つずつ見ていきましょう。
(1)所属感の減弱
「所属感の減弱」は、孤立している状態や、自分の居場所がないと感じる主観的な感覚です。
例えば、
- いじめ被害
- 安心できない家庭環境、児童虐待の被害
- 喪失体験(離別、死別、失恋など)
発言では
- 「(自分の)居場所がない」
- 「(自分のことを)誰もわかってくれない」
また、友だちと一緒にいても、「ありのままの自分でいられない」と感じ、所属感が弱まっていることがあります。
(2)負担感の知覚
「負担感の知覚」は、「自分が周囲の迷惑になっている」「自分がいない方が周囲は幸せ」という認識です。
例えば、
- 家庭内での葛藤
- 恥や屈辱感(人前での叱責など)
- 喪失体験(病気、学業や進路の挫折など)
発言では
- 「(こんな自分で)申し訳ない」
- 「(自分は)いなくなった方がいい」
- 「どうせ、私なんか」
自己評価が著しく低下し、恥や罪悪感、ときには強い攻撃性が生じている状態を指します。
ここまでの例を見ると、「自殺の危険因子」と重なる点が多いことが分かります。
\「自殺の危険因子」の10項目を確認しよう /
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(3)身についた自殺潜在能力
「身につけた自殺潜在能力」は、死を怖がらない、痛みに対する慣れなど、
死や痛みに対するハードルが下がっている状態を指します。
例えば、
- 過去の自殺企図
- 自傷行為(自殺の意図がなく反復されるリストカット等)
- 摂食症(拒食や過食・嘔吐など)
- 怪我や事故、暴力の被害・加害
発言では
- 「(死ぬのは)あまり怖くない」
- 「(自殺が)できると思う」
- 「痛いとは思わない」
これは、過去の経験を通して「身につけてしまった自殺潜在能力」と言うこともできます。
この状態にある人が自殺願望を抱えている場合、
「自殺の対人関係理論」では自殺リスクが非常に高いと評価されます。
希死念慮があると聴いたときは
死や痛みのハードルを確認する
例えば、次のように質問します。
先生死にたい気持ちになったときには、どうやって、やりくりして(しのいで)きましたか?
先生そういう気持ちになったとき、自分を傷つけたりする人もいるけど、〇〇さんはどうですか?
先生これまで、自殺をしようと、少しでも試したことはありますか?
本人からの回答に、
- リストカットを繰り返している
- 高所に複数回登ったことがある
- 自分の首を絞めたことがある
などの話があれば、恐怖や痛みへの慣れが推測できます。
また、すでに得ている情報に、
- 家庭で暴力にさらされていた
- 繰り返しピアスの穴を開けている
- 身体的な接触が多いスポーツを続けている
などの経験があれば、やはり恐怖や痛みへの慣れが推測されます。
こうした情報を総合することで、
「身につけた自殺潜在能力」があるかどうかを推測でき、自殺リスクの評価に役立てることができます。
以上のように「自殺の対人関係理論」は、理論がわかりやすく、学校や関係者の間で共有しやすい点が大きな特徴です。

2 自殺の計画性と準備性
医療機関をはじめとする多くのマニュアルや、自殺リスクのアセスメントシートには、
必ずといってよいほど「計画性」と「準備性」の項目が含まれています。
また、自殺リスクの総合判定(軽度〜重度)では、一般的に
「希死念慮」「計画性」「準備性」の三つが重要な指標として扱われています。
希死念慮が語られたときは
計画や準備について確認する
計画性・準備性の例
- 自殺の方法が決まっている(Web検索など)
- 手段となる物を準備している(ロープの用意など)
- 実行する場所や日時を決めている(「〇歳になったら」「〇〇が終わったあと」など)
- 周囲に予告している(友だちに伝えた、SNS投稿など)
- 死後を想定した準備をしている(身辺整理、遺書など)

例えば、次のように質問します。
先生どのように死のうかと考えたことはありますか?
先生自殺する方法について、ネットで調べたことはありますか?
先生何か道具を用意したりしていますか?
先生自殺をしようと、少しでも試したことはありますか?
本人の回答の中に、具体的な方法や準備が含まれる場合、自殺リスクは非常に高い状態と評価されます。
自殺を考えた人の34%は、具体的な自殺の計画を立てており、
自殺の計画を立てた人の72%は、実際に自殺企図におよんでいた
Kessler, R. C., Borges, G., Walthers, E. E. (1999). Prevalence of National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry 56, 617-626.
高い割合だと感じる方が多いのではないでしょうか。
このように、自殺の「計画性」と「準備性」は、リスク評価を行ううえで欠かすことのできない重要な視点です。

3 リスク評価のための質問のしかた
過去の自殺企図や自傷行為、さらに自殺の計画や準備について本人に尋ねる際には、いくつかの大切なポイントがあります。
- 心配していると伝え、じっくり耳を傾ける
単に質問するだけでなく、自分が心配している気持ちを伝え、信頼関係を築くことを重視します。
「TALKの原則」の Tell(伝える)、Listen(聴く)、Keep Safe(安全を確保する)の三つも意識しましょう。 - 理解に集中し、自然な流れで質問する
本人がこれまで抱えてきた苦しさや、死にたいほどの思いの深さを理解する姿勢で話を聴きます。
その流れの中で、リスク評価の質問を入れると、本人にとっても自然なやり取りになります。 - 本人の言葉を大切にする
本人が使った表現、たとえば「死にたい」「消えたい」「死ぬしかない」などは、そのまま尊重します。
ぼやかした表現を避け、「自殺について、ここでは話していい」と本人が感じられるような対応を心がけます。
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経験を重ねた人であっても、実際の場面では不安になったり、焦ったりするものです。
そのようなときに大切なのは、まず「自分の感情を少し落ち着かせること」かもしれません。
次のような言葉を思い出すと、支えになることがあります。
- 自殺について尋ねたことで、自殺が増えると示した研究は一つもない
- 「死にたい」という気持ちは、誰にでも話せるものではない
- 本人は、これまで一人で抱えていた気持ちを、ようやく言葉にしているのかもしれない
- 質問されなければ話しづらいことであり、質問しなければ分かりづらいことである
- 「自分の世界に入ってきてくれた人」がいると感じられることは、孤立感をやわらげる
深く暗い海底にいる人に会いに行くには、こちらも勇気を出して水に潜る必要があります。
その姿勢そのものが、本人にとって大きな光となるでしょう。

まとめ
- 希死念慮に加え、死や痛みに対する心理的なハードルが下がっている場合、自殺リスクは非常に高いと考えられる
- 希死念慮に加え、具体的な計画や準備がある場合も、自殺リスクは非常に高いと考えられる
- そのため、過去の自殺企図や自傷行為、計画や準備について丁寧に質問し、状況を把握することが重要
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