【トラウマインフォームドケア】学校現場に必要な新しい視点:こどものトラウマとその影響(後編)

前編と後編に分けて、学校における「トラウマインフォームドケア」について解説しています。

前編では、「広い意味のトラウマ体験」や「PTSDの症状」などについてお伝えしました。

後編では、トラウマ反応を理解するうえで重要な「3F(スリーエフ)反応」をはじめ、

トラウマに配慮した学校での対応や、教職員自身のケアについて、わかりやすく説明します。

前編を読んでいない方はこちら
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内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

5 トラウマの影響(後編)

(3)3F反応

人は危険を感じたとき、こころと身体が「非常モード」になります。

「非常モード」では、次のいずれかの反応が現れることが多いと言われています。

① 闘争(Fight:ファイト)
闘うことで自分を守ろうとする

② 逃走(Flight:フライト)
逃げることで自分を守ろうとする

③ 凍結(Freeze:フリーズ)
闘うことも逃げることもできないときに、固まることで生き残ろうとする

それぞれの英語の頭文字を取って、「3F(スリーエフ)反応」と呼ばれます。

3F反応は、人を含む動物に共通して備わっている、自分の身を守るための本能的・生理的な反応です

トラウマ体験に直面したとき、

あるいは、トラウマ体験を思い出すきっかけ(リマインダー)に触れたとき、

この「3F反応」が起こりやすくなります。

また、こどもの頃に繰り返し「非常モード」になる体験をしてきた人は、

客観的にみれば危険とはいえない状況でも、

あるいは、危害を及ぼすおそれがない相手に対しても、

「非常モード」になりやすく、「3F反応」が出やすくなると言われてします。

一見「問題行動」に見える行動は
自分の守るための反応かもしれない

その人が「危険を感じている」ということが理解できれば、

必要な対応も自然と見えてきます。

6 こんな子はいませんか?(後編)

ケース3:自分の気持ちが言えない子

Cさんは、教室や廊下で泣いていることが多い生徒です。

先生が話を聴こうとしても、泣いているだけで、何も話せません。

Cさんは、教室や廊下で泣いていることが多い生徒です。

先生が話を聴こうとしても、泣いているだけで、何も話せません。

トラウマの視点で見ると、

トラウマ体験
過去にいじめ被害を受けた

  

リマインダー
周囲から楽しそうな声や笑い声が聞こえると

  

トラウマ反応
涙が出てくる、自分の気持ちが分からなくなる

リマインダーは、トラウマ体験を思い出すきっかけ

これは、「感情麻痺(まひ)」と呼ばれるトラウマ反応である可能性があります。

トラウマ体験をすると、人は自分の心を守るために、無意識のうちに感情を感じにくくすることがあります。

そのため、「どうしたの? 泣いているだけじゃ分からないよ」と言われても、

本人自身も自分の気持ちが分からない状態であることがあります

生理的な反応だから、心の弱さとは関係がない

ケース4:だらけているように見える子

Dさんは、過去に虐待被害を受けていた生徒です。

先生から注意を受けているときに、あくびをすることがあります。

Dさんは、過去に虐待被害を受けていた生徒です。

先生から注意を受けているときに、あくびをすることがあります。

トラウマの視点で見ると、

トラウマ体験
安全でない環境で育った

  

リマインダー
強いストレスを感じる場面で

  

トラウマ反応
意識が現実から切り離されたような状態にある

これは、「解離(かいり)」と呼ばれるトラウマ反応である可能性があります。

強いストレスに直面したとき、心の防衛反応として、無意識に意識が切り離されているのかもしれません。

このほかにも、ぼーっとする話を聞いていないように見える などの様子が見られることがあります。

「だらけている」「真剣さが足りない」
と誤解されやすい

「だらけている」「真剣さが足りない」と誤解されやすい

「真面目に聞きなさい!」と強く指導すると、

緊張や不安が高まり、かえって話を聞けなくなってしまう可能性があります。

7 トラウマに配慮した学校での対応

『生徒指導提要』には、次のように述べられています。

被害に遭った児童生徒に対しては、誤った指導を行うことで二次的な問題が生じないように、最大限に配慮することが求められます。対応に当たっては、トラウマに関する知識と理解を持つことが不可欠です。そうでないと、トラウマの影響を見過ごしたり、無自覚に当該児童生徒を傷つけたりしてしまうことにもなりかねません

12章性に関する課題 12.3性犯罪・性暴力に関する生徒指導の重層的支援構造 12.3.2 性的被害者への対応

黄マーカーは当Webサイトが引いたもの

つまり、

トラウマの知識と理解を持つことで
無自覚に傷つけることを防ぐ

これと同じことが、トラウマインフォームドケアでも重視されています。

(1)再トラウマ化させない

再トラウマ化とは、教職員の対応によって、過去の「嫌な体験」が繰り返されるかたちとなり、

結果的に児童生徒を再び傷つけてしまうことを指します。

例えば、問題行動に対して「なにやっているの?!」と強く叱責することは、

児童生徒が過去に経験した、懲罰的・支配的な関係性を再現してしまう可能性があります

もちろん、トラウマが影響しているからといって、暴言や暴力が許されるわけではありません。

しかし、叱る前に一旦立ち止まり

「なにが起きているんだろう?」

「もしかしたら、トラウマが影響しているのかもしれない」

と考えてみることは、とても重要です。

本人が「安全だ」と感じられる環境や対応を目指すことが、

結果として行動の変容につながる、より効果的な指導となる場合もあります。

(2)児童生徒が話をするときは

トラウマインフォームドケアは、

児童生徒のトラウマ体験を無理に聞き出すものではありません

一方で、本人が「ここは安全だ」と感じられる場で、

自らトラウマ体験を語ることがあれば、教職員がその話を聴く場面もあると思います。

その際に有効とされるフレーズは、

「とてもつらい出来事を体験したあとの、自然な反応だよ」

「そんなことがあったのなら、そう感じるのも無理はないよね」

「もし私があなたの立場だったとしても、同じように感じると思う」

これは、「ノーマライズ(一般化)」と呼ばれる対応です。

「自分だけがおかしいのではないか」という孤立感や

自分に対する否定的なイメージを和らげる効果が期待できます。

(3)問題行動を指導するときは

指導のタイミングとして、

児童生徒がある程度落ち着いているときを選ぶことが多いと思います。

ただ、それでも本人の警戒心は高い状態であることが少なくありません。

まずは、児童生徒が安全・安心を感じ、過剰な警戒心を下げられるようなかかわりを意識する必要があります。

そのための工夫として、

  • 静かで落ち着いた場所を選ぶ
  • 最後まで話を聴き、共感を言葉にして伝える
    例「”バカにされた”と思ったら、腹が立つのも当然だよ」
  • 否定や命令の表現を避ける
    例「違うよ」「ダメだよ」「しなさい」
  • 先生が話す前に、了承を得る
    例「私の話も少し聞いてくれる?」

十分に児童生徒の話を聴いて、了承を得てから先生の話をするのがポイントです。

なぜなら、

トラウマ体験は
「話を聴いてもらえなかった体験」

「大声を出さなくても、話を聴いてもらえる」と本人が理解することで、少しずつ状態が変化していきます。

また、スクールカウンセラーの活用や、必要に応じて医療機関につなぐ視点も

学校として欠かすことのできない支援の一つです。

8 教職員自身のケア

児童生徒だけでなく、教職員自身のメンタルヘルスも、学校現場において極めて重要です。

トラウマインフォームドケアは、

児童生徒に対して抱く率直な感情に蓋をすることを求めるものではありません。

自分の中に生まれる怒りや戸惑い、負担感といったネガティブな感情を否定せず

業務や悩みを一人で抱え込まず無理にがんばり過ぎないことが、とても大切です。

児童生徒の問題行動に向き合う中で、

「何度言ったら分かるの?!」「いい加減にしなさい!」

といった言葉が口から出そうになるとき、

その背景には、教職員自身の傷つきや警戒心の高まり、無力感といった感情が潜んでいることがあります。

トラウマを抱えた児童生徒に継続的にかかわり続けることで、

教職員自身も、過覚醒や無力感といった、トラウマに似た反応を示すことがあると言われています。

そのため、教職員自身に対してもトラウマの視点を向け、

自分はいま、心が疲れているのかもしれない」と気づくことが重要です。

落ち着きを取り戻し、自身の安全・安心を優先しながら、

十分な休息と心身のケアを意識的に取ることは、

努力不足や能力の問題ではなく、人の心に触れる専門職として必要なセルフケアです。

トラウマの視点を持つことは
教職員自身のケアにもつながる

後編のまとめ

  • トラウマを抱えた児童生徒の行動は、性格や気持ちの問題ではなく、自分を守るための必死な反応である可能性がある
  • トラウマインフォームドケアは、再トラウマ化(嫌な体験の繰り返し)を防ぎ、安全・安心を土台にしたかかわりを学校現場にもたらす
  • トラウマの視点は、児童生徒だけでなく、教職員自身の心を守るためにも欠かせない

もっと学びたい先生へのオススメの書籍

子どものトラウマは、問題行動を引き起こすだけでなく、 その先の人生に大きな影響を及ぼすおそれがあります。

関連書籍のご案内
子どものトラウマがよくわかる本 講談社 白川美也子
トラウマインフォームドケア :”問題行動”を捉えなおす援助の視点 日本評論社 野坂祐子

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

PSYCLA サイクラ は、臨床心理学・心理学の理論・技法を、教育現場で活用しやすい形に再構成し、わかりやすい情報として提供しています。

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