【セルフ・コンパッション】児童生徒を思いやるように、自分自身を思いやる

教育職員の精神疾患による休職者数は、令和6年度も2年連続で7,000人を超えました(文部科学省)。

学校の先生は、本当に大変な仕事です。

荒野で生き抜くためにサバイバルの知識や技術が必要であるように、

厳しい職場環境で健康に働き続けるためには、セルフケアの知識や技術が欠かせません。

このコラムでは、ご自身のセルフケアに、新たな視点を加えるヒントをお届けします。

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

1 イメージで実験

ちょっとした実験です。次の2つの問いにお答えください。

<問1> ある生徒が、さまざまなことがうまくいかず、落ち込んでいます。

あなたはこの生徒にどのような言葉をかけますか?

<問1>
ある生徒が
さまざまなことがうまくいかず
落ち込んでいます

あなたはこの生徒に
どのような言葉をかけますか?

・・・

「何があったの?」「よかったら話を聞くよ」と、否定せずに耳を傾ける。(いいですね)

「大変だったね」「つらかったね…」と、気持ちに寄り添おうとする。(すばらしい)

「そういう時もあるよ」「あなたはがんばったよ」と、安心させようとする。(温かいですね)

では、次の問いです。

<問2> あなた自身に、うまくいかないことがあり、落ち込んでいるとき、

自分に対して、どのような言葉をかけているでしょうか。

<問2>
あなた自身に
うまくいかないことがあり
落ち込んでいるとき

自分に対して、どのような言葉を
かけているでしょうか?

・・・

先ほどと同じように

否定せずに自分の心の声に耳を傾けたり、

「大変だったね」

「そういう時もあるよ」

「(自分は)よくがんばったよ」と、

やさしい言葉をかけているでしょうか

きっと多くの人が

「これではダメだ」

「もっと頑張らないと」

「何が悪かったのか」

「とにかく、うまくやらなければ」

といったように、

自分を責めたり、完璧を求めたりする、「厳しい言葉」をかけているのではないでしょうか

児童生徒には思いやりのある言葉をかけるのに
自分自身には厳しい言葉を向けてしまう

児童生徒には
思いやりのある言葉をかけるのに
自分自身には
厳しい言葉を向けてしまう

これは、多くの人に共通して見られる傾向だといわれています。

相手が「友人」の場合は、どうでしょうか。

・・・

おそらく多くの方が、

友人に寄り添い、思いやりある言葉をかけるのではないでしょうか。

友人には思いやりのある言葉をかけるのに、

自分自身には厳しい言葉を向けてしまう。

自分にとって最も身近な存在は「自分自身」なのに。

この素朴な違和感が、セルフ・コンパッションの理論へとつながります。

2 セルフ・コンパッションとは

(1)自分への思いやり

Self=自分への Compassion=思いやり

大切な友人に思いやりをもって接するように
自分自身に思いやりをもって接すること

大切な友人に思いやりをもって接するように、自分自身に思いやりをもって接すること

Kristin Neff, Christopher Germar. The Mindful Self-Compassion Workbook.

例えば、

例1:

A先生は、保護者から怒りの電話を受けました

状況を説明し、お詫びしたものの、保護者の怒りは収まりませんでした。

帰宅後もその出来事が頭から離れず、何度も思い返しては、ため息をついています。

そのとき、A先生が自分自身に次のような言葉をかけたとしたら、どうでしょうか

「ショックだよね。保護者から大きな声で怒られたんだから、そうなるのは当然だよ。

いつも良い指導ができるわけじゃない。人間なんだから、誰だってそうだよ。

あなたが一生懸命にやっていたことは知っているよ。

どうしたいと思っている?

・・・

児童を大切に思っているんだね。

明日、ほかの先生の協力を得て、児童と保護者にできることを、一つずつやっていこう。」

このように、自分自身に思いやりのある言葉をかけます。

(2)自分に厳しくしなければ、成長しない?

「自分に厳しくしなければ成長できない」と考える方は少なくありません。

しかし実際には、

自分を厳しく追い込むよりも、優しさによってモチベーションを高める人の方が、

逆境をうまく切り抜け、失敗してもそれを学びの機会に変えることができます

また、多くの研究において、セルフ・コンパッションの高い人ほど、

不安とうつ状態の程度が低いことが明らかになっています

学校の先生方は、「厳しさだけでは人は成長しない」ということを、一番よく知っているのではないでしょうか。

教育現場でも、次のような言葉が大切にされています。

  • 結果ではなく過程が大切。がんばりを認めることが人の成長につながる
  • 悪いところを直そうとするより、良いところを伸ばそうとする方が、人は成長する
  • 自分を責めてもエネルギーが減り、空回りするだけ。視点を変え、前を見ること大切だ

先生方は、児童生徒に対して、日々たくさん認め、励ましの言葉をかけています。

どうか先生ご自身にも、同じように
自分を認め、ねぎらう言葉をかけてあげてください

(3)セルフ・コンパッションの3要素

ストレスを感じているときは、次の3つのステップを参考にして、自分自身に言葉をかけてみてください。

STEP
自分の感情に気づき、受け入れる

(専門的には「マインドフルネス」といいます)

まずは、自分がどのような感情を抱いているのかに目を向けます。

悲しみ、怒り、恥、恐れなど、感情を表す言葉を探してみてください。

感情を打ち消そうとしたり、無理に切り替えようとしたりする必要はありません

次のように、自分自身に語りかけてみます。

「悲しいんだね」

「今はつらいときだね」

「それは怒りだね」

「他には、どんな感情があるだろう」

「否定しなくていいよ。そのまま感じていていいよ」

「この気持ちのために、少し心の余白をつくろう」 など

STEP
人間は誰でも欠点があり、困難がある、と認める

(専門的には「共通の人間性」といいます)

次に、「自分だけではない」という視点を持ちます。

人間は誰でも、欠点を抱えながら成長していく存在です

生きていれば、誰だって失敗し、間違いがあり、困難に直面することがあります

人生はそういうものだと認め、次のように言葉をかけてみます。

「誰だって、そういうことはあるよ」

「残念だけど、人生に苦しみはつきものだよ」

「人はミスを繰り返して成長するものだよ」

「同じような課題に直面した先生は、たくさんいるはず」

「どんな先生だって上手くいかないことはある」 など

STEP
自分自身に優しい言葉をかける

(専門的には「自分への優しさ」といいます)

最後に、自分自身に思いやりのある言葉を向けます。

一つの方法として、

もし悩んでいるのが、親しい友人や大切な家族だったら、自分は何と言うだろうか」と想像してみてください。

そのときに浮かんだやさしい気持ちを、そのまま自分に向けていきます。

「本当に大変だったね。少し休んでいいよ」

「間違いがあっても大丈夫。よく頑張っているよ」

「私はあなたの味方だよ」

「忙し過ぎるんだから、仕方のないことだよ」

「将来に向けた学びの機会になったよね」

「何を大切に思っている?」

「どうしたいと思っている?」

「あなたは良い先生だよ。見ている人は必ずいるよ」 など

最後に、もう一つの例を紹介します。

例2:

B先生の担当する学級では、ここ数か月、不登校やトラブルが増えています

B先生は、自身の学級経営に問題があったのではないかと自信を失い、仕事への意欲も低下していました。

そんなとき、B先生は自分自身に次のような言葉をかけてみました

「つらいよね。生徒や学級のことを大切に思っているから、その分、責任を感じて、考えたくないんだよね。

こういう時は、誰にでもあるよ。決して、恥ずかしいことじゃない。

(あなたが)良い先生でありたいと思っていることは、分かるよ。

どうしたいと思う?

・・・

この経験をプラスにすることが大切だね。

今は心が疲れているから無理をせず、生徒と学級の様子をよく観察しよう。

そこから、何かに気づけるかもしれない。」

まとめ

  • セルフ・コンパッション(自分への思いやり)とは、「大切な友人に思いやりをもって接するように、自分自身にも思いやりをもって接すること」です
  • 「認められること」が人にとってどれほど重要かを知っている先生だからこそ、ご自身にも、認める言葉をかけていただきたいと思います
  • セルフ・コンパッションの3要素は、「自分の感情に気づき、受け入れる」「人間は誰でも欠点があり、困難がある、と認める」「自分自身に優しい言葉をかける」です

セルフ・コンパッションを高めるワーク /

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セルフ・コンパッションのやさしい実践ワークブック 星和書店 ティム・デズモンド
マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック 星和書店 クリスティン・ネフ、クリストファー・ガーマー

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次回もどうぞお楽しみに。

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