【誰にも言わないで】教師が知っておきたい、児童生徒の安全と信頼を守る対応のポイント

いじめや自傷行為、希死念慮などに関する相談の中で、

児童生徒から「保護者に言わないでほしい」と求められることがあります

このような場合、教師はどのように対応すればよいのでしょうか。

このコラムでは、保護者への連絡を拒否する児童生徒への対応のポイントを解説します。

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

1 情報共有の必要性

(1)対応に迷う場面

いじめ、自傷行為、希死念慮などに関する相談では、

法的義務が伴う場合もあり、学校は原則として保護者と情報共有を行う必要があります

例えば、自傷行為について、保護者に連絡せず学校内で対応を続けた結果、

まもなく自殺企図が起きた場合には、学校が責任を問われる可能性も考えられます。

一方で、児童生徒の意向を無視して保護者に連絡すると、

本人との信頼関係が崩れ、かえってリスクが高まることもあります

特に、児童生徒が精神的に不安定な状態にあり、

「連絡したら死ぬ!」などと強く訴えた場合、

教師は大きな葛藤に直面することになるでしょう。

(2)「言わない」と約束することの危険性

教師が「言わない」と約束することには、大きな危険があります。

理由は次の通りです。

  1. 児童生徒の安全を守れなくなる可能性

    学校だけで対応できる範囲には限界があり、保護者との連携は必要不可欠です。
  2. 信頼関係がより深く傷つく可能性

    状態が長期化・深刻化すれば、約束を破らざるを得ない場面がいずれ訪れます。
    その際、児童生徒に大きな失望感を与えてしまうおそれがあります。
  3. 教師自身を守れなくなる可能性

    法的・倫理的責任を問われる可能性や、過度な心理的負担を抱えることにもつながります。

「約束しない」ことは、児童生徒の願いや気持ちを軽視するものではありません。

状況の深刻さを正面から受け止め、より安全で持続的な支援につなげるための責任ある判断だといえます。

保護者連絡を原則としたうえで
信頼を損なわない対応を心がける

(3)学校現場で出会うケース

実際の学校現場では、次のようなケースも少なくありません。

  • 保護者に会ってみると、児童生徒から聞いていた話とは異なり、本人を非常に心配していた。
  • 学校から丁寧に説明を行うことで、保護者の態度が好転し、児童生徒の状態も徐々に落ち着いていった。
  • 児童生徒から情報共有の了承は得られなかったものの、本人には気づかれない形で保護者と連携し、支援を継続している。

よく言われるのは、

「連絡しないで」と言われるケースほど
実は、家庭への介入が必要な場合が多い

「連絡しないで」と言われるケースほど、実は家庭への介入が必要な場合が多い

このように捉えることで、「この機会を逃さないほうがいい」と前向きに考えやすくなり、

困難な状況に対応するためのエネルギーも湧いてくるのではないでしょうか。

では、本人から情報共有の了承を得る際の対応のポイントを見ていきましょう。

2 対応のポイント

門前払いのように、

「それは約束できない」「連絡する義務がある」

と返答してしまうと、児童生徒との信頼関係を損なう危険があります。

では、どのような点を意識して対応するとよいのでしょうか。

(1)児童生徒の不安を理解する

文部科学省の『教師が知っておきたい子どもの自殺予防』には、次のような記載があります。

子どもが恐れているのは自分の秘密が知られることではなく、それを知った際の周りの反応なのです。子どもは、大人の過剰な反応にも、そして、無視するような態度にも、どちらにも深く傷つきます。

第2章 5対応の留意点 3)「秘密にしてほしい」という子どもへの対応

黄マーカーは当Webサイトが引いたもの

児童生徒が恐れていることには、次のようなものがあります。

① 過剰な反応の例

  • 保護者に怒られる
    (例:「バカなことはやめなさい」)
  • 大騒ぎされる
  • 保護者が不安定になる
    (例:「私がダメな親だから」)

② 無視するような態度の例

  • つらい気持ちを否定される
    (例:「アピールしているだけ」)
  • 悩みを軽く扱われる
    (例:「たいしたことじゃない」)
  • 先生に話したことを責められる

③ その他の例

  • 保護者に迷惑をかける
  • 「弱い人」だと思われる
  • 知られたくない別の秘密がある など

恐れていることは一人ひとり異なり、それは本人にしか分かりません

だから、まず「何が心配なのか」を本人から聴くことが必要となります

例:問いかけ

先生

おうちの人が聞いたら、どんな反応をすると思う?

過去の経験や保護者の様子を、できるだけ具体的に聴いていきます。

児童生徒の気持ちを理解すると、

本人の拒否は、自分を守るための自然な反応であることが分かります。

先生

それを心配しているのね
そう考えると、言ってほしくない気持ちにもなるよね…

このような言葉を返して、

本人が「自分の気持ちを分かってもらえた」と感じることが重要です。

相手のニーズを知る
ニーズを知らずして提案はできない

(2)恐れることが起きないように対応する

本人が何を恐れているのかが分かったら、

次はその不安が現実にならないよう、配慮する姿勢を示します。

例:教師の提案

先生

「悪いことをしているわけじゃないから、怒ったりしないでください」と私から保護者に伝えてみるのはどうかな?

先生

「リストカットを否定したり責めたりしないでほしい」と私からお願いしてみようと思うけど、どうかな?

「絶対に起きない」と約束するのではなく、起きないよう精一杯努力することを約束するというスタンスが大切です

ここでのポイントは、

保護者に説明する際に使う言葉を、本人に示すことです。

そうすることで、本人が、

児童生徒

先生がこんなふうに言ってくれるなら、大丈夫かもしれない

と感じ、情報共有への納得につながります。

こうした話をすると、

「そんなに上手な言葉が思いつかない」と不安になる先生もがいるかもしれません。

しかし、特別な言葉は必要ありません

本人の使った言葉を中心に、本人が言いたいことをそのまま伝えることが大切です

理解者・代弁者になることを目指す

「恐れていることが起きないのなら、本当は知っておいてほしい…」

それが、児童生徒の気持ちなのではないでしょうか。

(3)目的や必要性を説明する

最も重要な目的は、「児童生徒を守ること」です。

この目的を、冷静かつ粘り強く伝えます。

例:教師の説明

先生

あなたを守るために、ある程度はうちの人に知っておいてもらう必要があると思うよ

先生

私が家まで一緒にいることはできないから、つらい状態にあることだけでも、保護者には伝えさせてほしい

(1)のステップを踏んでいれば、法的根拠を補足的に説明することも有効です。

先生

いじめに関することは(法の定義でいじめに該当するものは)、保護者に伝えることが法律で決まっているんだよね…

また、ひとり言のように教師の葛藤をつぶやくことも、テクニックとして使えます。

先生

〇〇さんがこんなに苦しんでいるのに、保護者がそれを知らないっていうのは…

「説得」ではなく「説明」をする

双方が納得できる妥当点(Win-Win)を探ろうとする姿勢を維持します。

(4)言うこと、言わないことを明確にする

「言うこと」「言わないこと」をあらかじめ線引きすることで、

児童生徒が安心できる場合があります。

例:教師の伝え方

先生

性に関する悩みそのものは言わないよ
でも、つらい気持ちを抱えていることは、伝えさせてもらっていいかな?

先生

親との関係に悩んでいることは言わないよ
でも、生きるのがつらいと感じるほど、苦しい状態にあることは伝えさせてほしい

また、本人の意思表示と選択の機会をつくることも有効です。

先生

おうちの中で、誰が一番わかってくれそう?

先生

私が保護者に説明する場に、一緒にいて聞きたい?
それとも、別の部屋で待ちたい?

先生

ほかにも「これを伝えてほしい」ということはありますか?

自己決定の機会をつくることは、

絶望感や無力感に追い詰められた児童生徒が、

支援を受ける過程で、さらに無力感を強めてしまわないようにするための大切な配慮です

本人の意思決定を大切にする
(確認しながら進める)

そして、合意形成ができたあとには、改めて次のような言葉を伝えます。

先生

今日は話してくれて、ありがとう
そんなに苦しんでいるとは気づけなかったから、
教えてもらえて本当によかった
また、話を聴かせてね

こうした言葉が、児童生徒の安心感と信頼につながります。

3 より慎重な判断が必要なケース

保護者への連絡によって、かえって本人の安全が脅かされることが予想される場合には、

より慎重な判断が必要です。

例えば、次のようなケースが考えられます。

  1. 児童虐待が背景にある場合

学校からの連絡によって、本人が危険にさらされるおそれがある場合には、

保護者への連絡を行う前に

児童相談所や市町村の虐待対応担当課などに速やかに通告や情報提供を行い

関係機関と連携して対応を検討します。

  1. 保護者自身が不安定な状態にある場合

例えば、保護者が本人に対して「一緒に死にたい」などと発言しているケースです。

学校からの連絡によって、本人がさらに危険な状況に置かれるおそれがある場合には、

スクールソーシャルワーカー(SSW)とともに、

市町村の子育て支援課などと連携し、家族全体を支援の対象として捉えた対応につなげます

このようなケースでは、

保護者への連絡の可否や方法等について、学校だけで判断することは避ける必要があります。

教育委員会、専門家、関係機関の助言やサポートを受けながら

慎重かつ適切に対応することが求められます。

保護者との連携(文部科学省)

文部科学省『生徒指導提要』

8.4.1 保護者との連携

学校が児童生徒の自殺の危険を把握した場合に、保護者との協力体制を築くことは最重要事項の一つです。

しかし、保護者自身が経済的な困難を抱えていたり、精神疾患などの疾病があったりするために、子供の危機を受け止めて対応する力に欠けている場合もあります。また、保護者からの虐待が背景にあるなど家族との関係そのものが自殺に関わっている場合も考えられます

したがって、危機的な状況にある児童生徒を支援し自殺の危機から救うためには、困難を抱えていたり、子供への関わりが適切ではなかったりする家族に関わり、子供だけでなく保護者を含め、家族全体を支援することのできる機関につなげたり、学校が関係機関と連携したりしながら、状況に応じて家族の機能を代替できる体制をつくるなどの取組も必要になります。

引用(第8章 自殺 8.4 関係機関等との連携に基づく自殺予防の体制)

黄マーカーは当Webサイトが引いたもの

まとめ

  • 保護者への連絡を原則としたうえで、児童生徒の安全を最優先にしながら、信頼関係を損なわない対応を心がける
  • 「何を心配しているのか」を本人から丁寧に聴き、具体的な対応案や選択肢を示すことで、納得感と安心感につなげる
  • 保護者への連絡によって危険が予想される場合には、教育委員会や専門機関と連携し、安全確保と支援の両立を図る

関連書籍のご案内
・「死にたい」に現場で向き合うー自殺予防の最前線ー 日本評論社 松本俊彦(編)

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