児童生徒から相談を受けたあと、「ちゃんと相談に乗れただろうか」と振り返ることはありませんか。
児童生徒が求めているのは、解決策そのものよりも、「わかってもらえた」という実感であることが少なくありません。
その実感を支えるのが、傾聴の基本技法の一つである「伝え返し」です。
本コラムでは、「伝え返し」の基本や必要性、学校現場での活用方法について、わかりやすく解説します。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 伝え返しとは
傾聴における「伝え返し」とは、
聴き手が自分の理解を確かめるために
相手の話を言葉で返す技法
言葉には出しませんが、
『あなたは、こういうことを言っているのですね』
『私はこう理解していますが、合っていますか』
『あなたの中では、こんなふうになっていますか』
といったニュアンスで、相手の話を確かめるかかわりです。
具体例を見てみましょう。
児童生徒最近、友だちに話しかけても、なんか前みたいじゃなくて、ちょっと冷たい感じがするんです
仲間はずれにされているのかなって…寂しくて……
先生冷たくされている感じがして…寂しいんだね
(伝え返し)
児童生徒そうなんです……
先生は、児童生徒の話に対して、『こういう気持ちなんだね』と、自分の理解を確かめています。
そして児童生徒は、その理解が自分の気持ちと重なったことで、「わかってもらえた」と感じています。
この「わかってもらえた」という感覚が、伝え返しのポイントです。
つまり、
聴き手の「理解の確認」が
話し手にとっての「共感」になる
これは、とてもシンプルな構造です。
聴き手が、自分の理解を確かめることは、結果として、
話し手にとって、「自分が理解されている」と確かめる体験につながるのです。

2 伝え返しが必要な理由
ここで、次の二つのケースを比べてみましょう。
(1)すぐに指導・助言するケース
児童生徒部活を辞めたいです…毎日きつい練習を頑張ってきたのに、自分より上手い後輩が入ってきて……もう行く意味が分からないし…
先生それが悔しいなら、もっと頑張って練習するしかないだろ!
児童生徒……
この場面で先生は、児童生徒の気持ちを受け止める言葉を返さないまま、「どうすればよいか」を先に伝えています。
もちろん、先生として励ましたい気持ちや、前向きになってほしい思いがあるのでしょう。
一方で、児童生徒にとっては、「自分の気持ちを理解してもらえないまま指導された」と感じやすい場面でもあります。
(2)まずは共感するケース
児童生徒部活を辞めたいです…毎日きつい練習を頑張ってきたのに、自分より上手い後輩が入ってきて……もう行く意味が分からないし…
先生頑張る意味が分からなくなって…
つらくなっているんだね
(伝え返し)
児童生徒はい……なんだか…もう、
せっかく頑張ってきたのに、試合にも出られないし……
先生の「伝え返し」によって、児童生徒は「わかってもらえた」という感覚を持ち、さらに自分の気持ちを言葉にしています。
このようなやり取りは、児童生徒との信頼関係を築くことにもつながります。
また、十分に気持ちを受け止めてもらえたあとであれば、先生からの励ましや助言も届きやすくなるでしょう。
大切なのは、
まずは、「伝え返し」で共感する
指導や助言は、そのあと
この順番を少し意識するだけでも、児童生徒との対話は変わっていきます。

3 やり方①:感情を伝え返す
本コラム(前編)では、感情に焦点を当てた「伝え返し」を紹介します。
具体例を見ながら、実際の返し方を考えていきましょう。
(1)言葉の返し方
イメージとしては、
『こういう気持ちなんですね』
『こんなふうに感じているのですね』
というニュアンスで返していきます。
基本の形は、次のようになります。
「(状況)で、(感情)なのですね」
「(状況)で(感情)なのですね」
例えば、
「突然のことで、驚いたんですね」
「きつい言葉を言われて、傷ついたんだね」
「みんなで達成できたことが、嬉しかったんだね」
このように、(状況)と(感情)をつなげて返すことがポイントです。
具体例を見てみましょう。
例1:児童生徒の言葉を使う
児童生徒数学が苦手で……授業が全然わからなくて…
テストが本当に不安で…どうしたらいいのか…
先生数学がわからなくて、テストが不安になっているんだね
この例では、児童生徒が直接言葉にした感情(不安)を使いながら、「状況 + 感情」で伝え返しています。
例2:児童生徒の感情をくみ取る
児童生徒グループで、あの子の愚痴とか悪口が始まると…
話を合わせなきゃいけなくて…
黙っていると嫌われそうだし……
先生話を合わせなきゃいけなくて…苦しくなっているんだね
この例では、児童生徒自身は「苦しい」とは言葉にしていません。
しかし、話の内容から感情をくみ取り、「苦しい」という感情を確かめるように伝え返しています。
例3:感情の強さも含めて伝え返す
児童生徒お父さんとお母さんの仲が悪くて、時々ケンカして…
いつか離婚するんじゃないかって…
学校にいても、そんなことばかり考えてしまうんです……
家に帰るときも、ドキドキして……
先生お父さんとお母さんのことが気になって…
不安でたまらなくなっているんだね…
この例では、話の内容から感情を想像し、単に「不安」と返すだけでなく、
「不安でたまらなくなっている」という感情の強さまで含めて伝え返しています。

(2)感情をとらえる
慣れないうちは、「感情をとらえる」と言われても、難しく感じる方も多いかもしれません。
そこでまずは、基本的な感情と、その背景にある意味について整理してみましょう。
例:感情とその背景にある意味
| 感情 | 背景にある意味 |
|---|---|
| 怒り | 自分の領域が侵されている、不当に扱われている |
| 悲しみ | 大切なものを失った(人、夢、健康など) |
| 不安 | 未知のこと、よくないことが起きそう |
| 恐怖 | 危険が迫っている |
| 虚しさ | 自分で選んでいない、意味を感じられない |
| 恥ずかしさ | 自分だけで秘めておきたいことが知られる |
| 感情 | 背景にある意味 |
|---|---|
| 怒り | 自分の領域が侵されている 不当に扱われている |
| 悲しみ | 大切なものを失った (人、夢、健康など) |
| 不安 | 未知のこと、よくないことが起きそう |
| 恐怖 | 危険が迫っている |
| 虚しさ | 自分で選んでいない 意味を感じられない |
| 恥ずかしさ | 自分だけで秘めておきたいことが知られる |
もちろん、感情は一つだけとは限りません。
たとえば、「怒っている」ように見える児童生徒も、その奥に悲しさや不安を抱えていることがあります。
そのため、話を聴くときは、
「この児童生徒は、どんな感情を感じているのだろう?」
「もし自分が同じ立場だったら、どんな気持ちになるだろう?」
と考えながら耳を傾けることが、「伝え返し」の第一歩になります。

では、簡単な練習をしてみましょう。
- 次の児童生徒が抱いている感情は?
児童生徒志望校のことで悩んでます…
本当に行きたい高校があるんですけど、「今の成績じゃ全然足りない」って塾で言われて…
でも諦めたくないし…
かといって、無理して落ちたらどうしようって……
【解答はこちら】
不安 悔しさ 焦り 落ち込み など
- 次の保護者が抱いている感情は?
保護者夜遅くまでゲームして、注意すると逆ギレ…
朝もなかなか起きられず、いい加減にしてほしいです
言うことを全然聞きません……
【解答はこちら】
怒り イライラ 戸惑い 心配 無力感 など
実際には、言葉だけでなく、表情・姿勢・声のトーンなどからも、感情を想像することができます。
また、相手が事実だけを話している場合には、
「そのとき、どんな気持ちだった?」
「どう感じたの?」
と質問することもできます。
そのため、実際の面談や相談場面では、今回の練習よりも感情をとらえやすく感じられることも少なくありません。

(3)うまく使うためのポイント
「伝え返し」は、タイミングが大切です。
話を聴き始めてすぐに感情を伝え返してしまうと、十分な話を聴かないまま理解したように受け取られ、
かえって、「ちゃんと聴いてもらえていない」と感じさせてしまうことがあります。
感情を理解するためには、まず、
「何があったのか」「本人がどう受け止めているのか」を丁寧に聴くことが大切です。
そのうえで行う「伝え返し」が、相手にとって「わかってもらえた」という感覚につながります。
また、相手が共感よりも、具体的な対応や解決策を求めている場面では、
感情ではなく、話の内容や考えを整理して返すほうが適している場合もあります。
この点については、後編で詳しく解説します。
ただし、そのような場合でも、相手の感情を見過ごさない姿勢は大切です。

4 練習してみよう
最後に、「伝え返し」の練習をしてみましょう。
正解は一つではありません。
「どんな感情があるだろう?」と考えながら、「状況 + 感情」の形で返してみてください。
- 次の児童生徒の言葉に「伝え返し」をしてみましょう。
児童生徒クラス替えで、仲が良い友だちと全員離れちゃって…
今のクラスに話せる人が、誰もいないんです…
休み時間になると、一人で…寂しくて……
【解答はこちら】
解答例:
「話せる人がいなくて、一人みたいに感じて、寂しいんだね」
「仲の良い友だちと離れて、一人になったようで、寂しいんだね」
この場面では、すぐに
「新しい友だちを作ろう」
と助言する前に、まずは寂しさや孤独感を受け止めることが大切です。
- 次の保護者の言葉に「伝え返し」をしてみましょう。
保護者担任の先生から「提出物が出ていない」と連絡をいただいて驚きました…
家では「宿題は終わった」と言っていたのに、嘘をついていたんです……
【解答はこちら】
解答例:
「家で聞いていた話と違っていて、驚かれたのですね」
「宿題は終わったと聞いていたのに、違っていて……戸惑われたのですね」
ここでも、まずは驚きや戸惑いを受け止めることが大切です
「嘘をついたことへの対応」は、そのあと一緒に考えていくという順番です。
- 次の児童生徒の言葉に「伝え返し」をしてみましょう。
児童生徒ある友だちが、ずっと私と一緒にいたがるんです……
休み時間もトイレも一緒で…
その子のことは嫌いじゃないけど……うーん
【解答はこちら】
解答例:
「ずっと一緒で、苦しくなっているんだね」
「自由にできなくて、息苦しくなっているんだね」
この場面では、
苦しさ しんどさ 息苦しさ イライラ などの感情が想像できます。
実際の場面では、出来事をもう少し聴いたり、
「どんな気持ちなの?」と尋ねたりしながら、理解を深めていくこともできるでしょう。
大切なのは、助言や対応を話し合う前に、まず本人の感情に共感する言葉を返すことです。
最初からうまくできなくても大丈夫です。
「この人は、どんな感情を抱いているのだろう」
そんな視点を持ちながら話を聴いていくことで、児童生徒や保護者とのやり取りが、少しずつ変わっていくかもしれません。

前編のまとめ
- 「伝え返し」とは、「あなたの話をこう理解していますが、合っていますか」と確かめる技法です
- 「伝え返し」によって、児童生徒が「わかってもらえた」と実感することで、その後の励ましや助言を受け取りやすくなります
- ポイントは、「〇〇で、つらいんだね」「〇〇で、不安なんだね」のように、「状況+感情」の形を意識して返すことです
\ 後編は感情ではなく「内容の伝え返し」/
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