学校で実施する合理的配慮について、やさしい言葉で、わかりやすく解説しています。
前編では、合理的配慮の概要と、基盤となる考え方についてお伝えしました。
後編にあたる今回は、実際に進めるプロセス(何から始めるか)と、他の児童生徒への説明方法についてご紹介します。
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内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
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3 何から始めたらいいの?
(1)情報を集め、何ができるか考える
困っていることを、最もよく知っているのは本人です。
ただし、どのような調整が可能かについては、本人でも分かりにくい場合があります。
そのため、学校から調整の選択肢を提案できるよう、あらかじめ準備をしておくことが望ましいでしょう。
情報収集の方法は
- 文部科学省や教育委員会等が発行している資料・事例集を確認する
- インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)で検索する
- 本人・保護者の了承を得たうえで、児童生徒の前籍校から情報を得る
(個別の教育支援計画、個別の指導計画がありますが、直接担当者から話を聴くことをお勧めします)
特に対応が難しいケースは
- 教育委員会や、地域にある特別支援学校(センター的機能)等に相談する など
文部科学省の示している具体例(抜粋)
文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針について(通知)
ア 物理的環境への配慮
- 授業で使用する教室をアクセスしやすい場所に変更する
- 落ち着くことができるよう個室等を用意する
イ 人的支援の配慮
- 介助等を行う学生、保護者、支援員等の教室への入室等を許可する
ウ 情報の配慮
- 比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに説明する
エ ルール・慣行の柔軟な変更
- 板書やスクリーン等がよく見えるように、黒板等に近い席を確保する
- 読みやすい字体による資料を作成したり、筆記に代えて口頭試問で行ったりする
また、NITSの校内研修シリーズ、発達障害教育推進センターが、研修や支援に役立つ情報を提供しています。
「学校が障害に合わせた調整方法を学ぶ機会」と捉える

(2)4つのステップで進め、PDCAを回す
最初のステップは、本人・保護者からの「意思の表明」です。
このステップの背景には、次の言葉があります。
「私たち抜きに、私たちのことを決めないで(Nothing about us, without us)」
障害者権利条約でスローガンとなった言葉です。
合理的配慮を決めるときは、本人・保護者の意向を聞くことが重要です。
本人・保護者の声を聞かずに、学校だけで考えた配慮は、「合理的配慮」とは言いません。
また、「相談を待ち続ける」という姿勢ではなく、
必要に応じて、学校から本人・保護者に対話を働きかけることが望ましいとされています。
本人・保護者のニーズ(困りごと、必要な調整、期待される効果)が明確になるように、話を聴きます。
このときに、できるだけ具体的に話を聴くことで、本人の状態をアセスメントでき、
今後、学校から調整の方法を提案するための土台となる情報が得られます。
もし、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」に当たると判断した場合は、
その理由を本人・保護者にわかりやすく説明し、代替案を提示します。
粘り強く、互いを理解するための対話を重ね、合意形成を目指します。
合意形成した合理的配慮は、「個別の教育支援計画」に明記します(Plan)。
そして、全教職員で共通理解を持ち、合理的配慮を適切に実施します(Do)。
「合理的配慮を提供したんだから、あなた自身も努力して・・・」
「特別な対応を受けているんだから、感謝の気持ちをもって・・・」
といった発言は、「障害の個人モデル」に基づいた考え方であり、不適切です。
努力や感謝は大切なことですが、このような文脈で求めることは間違っています。
無理解からくる不用意な言葉によって、児童生徒を傷つけることがないように注意が必要です。
合理的配慮は、本人の成長に応じて柔軟に見直していくことが必要です。
学校は、「本人が十分な教育を受けることができているか」という観点から、定期的に評価します(See)。
この際、本人からのフィードバックを聴くことが最も重要です。
その上で、必要な改善を行います(Action)。
「児童生徒が調整を求めることを学ぶ機会」と捉える
「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」は、本人・保護者の了承を得たうえで、進学先等に引き継ぐと、
切れ目のない支援を実現しやすくなります。

ここまでのまとめ
- 合理的配慮の実施プロセスで大切なのは、「話を聴く」「情報を集める」「本人を中心に考える」
これらは、教育相談の基本的な考え方とも一致している - まずは、特別支援教育に関する校内研修を充実することが、大きな一歩になる
4 他の児童生徒への説明方法
学校は、「みんな同じように」という考えが根強く残る場所でもあります。
そのため、合理的配慮を受けている児童生徒に対して、ほかの児童生徒が「ずるい」と感じてしまうことがあるかもしれません。
たとえ口に出されなくても、周囲からネガティブな感情を向けられることは、とてもつらいことです。
このような状況を防ぐためには、児童生徒が合理的配慮について学ぶ機会をつくることが大切です。
もちろん、すべての人が納得する「魔法のような方法」は存在しませんが、参考となる説明の例を2つご紹介します。
本人・保護者の意向を確認しながら、計画的に進めてください。
例1 眼鏡をかけるのって、ずるい?
視力の低い人が眼鏡をかけるのって、ずるいことだと思いますか?
きっと、そんなふうには思わないですよね。
「みんなと同じように、眼鏡をかけずに(裸眼)勉強しなきゃダメだ」って、思いますか?
たぶん、それも思わないですよね。
どうしてでしょうか?
・・・
それは、眼鏡がなければ黒板の字が見えなくて、勉強ができない、勉強がとても大変になるって、わかっているからだと思います。
実は、〇〇さんが使っている△△△(例:アプリ、別プリント)も、眼鏡と同じなんです。
それがあるから、〇〇さんは勉強を始めることができます。
それがなければ、勉強がとても大変になってしまうのです。
△△△(例:アプリ、別プリント)を使うことで、〇〇さんは、ほかの人と同じスタートラインに立てます。
この話を聞いて、みなさんはどう感じましたか?
この説明は、次の特徴があります。
- 合理的配慮が「有利になること」ではなく、「同じスタートラインに立つためのもの」であることを説明できる
- 児童生徒にとって身近な例を用いて、ノーマライズ(一般化、正常化)できる
- 本人の努力不足ではないことも自然と伝えられる

例2 いろいろな自動車がある
自動車には、さまざまな種類があります。
たとえば、コンパクトカー、スポーツカー、トラック、バス、ショベルカー、キッチンカー・・・
それぞれ、スピードや小回りの良さ、乗れる人数など、得意なことが違います。
では、少し想像してください。
多くの人がコンパクトカーに乗っているので、それに合わせて、世界中の道路をすべて細くし、速度制限を下げ、駐車スペースも小さくしたら・・・
ほかの車に乗っている人は、どう思うでしょうか?
とても運転しにくくて、困ってしまいますよね。
「多数派」に合わせてつくられた社会は、「少数派」の人たちにとって、とても苦しい環境になってしまうことがあります。
実は、学校の学習方法や試験のやり方も、多くの場合、「多数派」に合わせたものになっています。
そのため、「少数派」の人にとっては、学びにくく、不公平に感じられることがあり、大きな課題となっています。
今回、〇〇さんが△△△(例:試験時間の延長、別室受験)を利用するのは、まさにこのような課題に対して、環境を調整するための取り組みです。
〇〇さんに問題があるのではなく、「多数派」に合わせすぎている学校の仕組みに、課題があるのです。
もし、みなさんの中に「私も少数派で、困っていることがある」と感じている人がいたら、遠慮せずに相談してください。
この説明は、次の特徴があります。
- 「障害の社会モデル」に基づき、社会・学校の仕組みの課題として説明できる
- 本人を「できない人」ではなく「できることが違う人」として説明でき、尊厳を守ることにつながる
- 学び方の多様性について考えるきっかけにもなる

「ずるい」と発言する児童生徒がいたときは、背景にある思いを理解することが重要です。
その児童生徒自身が、何らかの理由で我慢をしているのかもしれません。
説明するだけでなく、気持ちを聴くことも大切にしたいところです。
まとめ
- 「合理的配慮はずるい」「わがまま」という誤解そのものが、社会的障壁(バリア)の一つになっている
- 「もし、自分が負傷して、合理的配慮を求める立場になったら」と想像してみると、自分ごととして捉えやすくなる
- 先生がどれほど素晴らしい授業をしても、児童生徒が「教育の受けにくさ」を抱えていたら、本来目指している学びの成果につながらないかもしれない
もっと知りたい先生へのオススメの書籍

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!