先日、情報処理安全確保支援士のオンライン講習を受講しました。
その中で紹介された「情報共有のトライアングル(ジレンマ)」という考え方が、
学校現場にも非常に有益だと感じたため、ここで紹介します。
このコラムでは、情報共有の限界と、組織としての対応の在り方について考えていきます。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 情報共有のトライアングルとは
理想的な情報共有は、「早くて、正確で、抜け漏れがない」です。
しかし、この三つを同時に実現することは容易ではありません。
なぜなら、情報共有には避けられないジレンマがあるからです。
急いで情報共有をすれば、情報の量と質が低下しやすくなります。
一方で、情報の量と質を十分に確保しようとすれば、時間がかかってしまいます。
このジレンマは、次のトライアングルで整理されます。

「早さ」「正確性」「網羅性」は
いずれか2つしか満たせない
出典:ISOG-J「セキュリティ対応組織(SOC /CSIRT)強化に向けたサイバーセキュリティ情報共有の「5W1H」p.15
組み合わせは、次の三つです。
① 早くて正確だが、網羅していない
例:
「Aさんが家を出たにもかかわらず、登校していません」と管理職に報告する場面。
まだ何が起きたのか分かっていません。
② 早くて網羅的だが、正確さに欠ける
例:
「校門付近や教室で、Aさんを見かけたという声があります」と管理職に報告する場面。
不確かな情報が含まれている可能性があります。
③ 正確で網羅的だが、時間がかかる
例:
Aさんは校門の前まで来ていましたが、体調が悪くなり帰宅していました。
その後の個別面談で、Aさんは「本当は登校したくなかった」と打ち明けました。
全体像を把握するには、一定の時間が必要です。

2 学校の具体例(いじめ事案)
いじめ事案を例に、状況に応じた情報共有の在り方について説明します。
(1)初期対応(組織への報告)
教師は、いじめを発見した場合、速やかに組織(管理職)に報告します(第23条1項)。
この報告で重視されるのは、「早さ」と「正確性」です。

「早さ」は早期対応と抱え込み防止の視点から重要であり、「正確性」は組織として適切な対応方針を決定するために不可欠です。
一方で、この段階では「網羅性」の優先順位は高くありません。
初期段階で全体像が見えていないのは当然のことです。
報告を受ける側も、その前提を理解しておく必要があります。
(2)保護者への連絡
学校は、関係する保護者に、いじめ事案について連絡(情報共有)を行います(第23条5項)。
この連絡においては、
最初の連絡(第一報)は「早さ」と「正確性」が、
その後の第二報以降では、徐々に「網羅性」「正確性」が優先されていきます。

どの段階でも共通して重要なのは、「正確性」です。
「正確性」に欠ける連絡の例としては、次のようなものが挙げられます。
「おそらく、相手の児童生徒に悪気はないと思います(事実と異なる情報や憶測を含む発言)」
「本人が『いじめ』と言っていないので、これは喧嘩です(法令理解の不足による誤った判断)」
こうした発言は、信頼関係を損なうだけでなく、組織的対応にも支障をきたすおそれがあります。
(3)対応策の検討(学校いじめ対策組織)
いじめ事案に対しては、対策組織を中核として、組織的に対応策を検討・実行します(第22条、文部科学省の基本方針)。
この場面で重視されるのは、「正確性」と「網羅性」です。

「網羅性」の具体例としては、次のような情報が挙げられます。
- 被害の児童生徒および保護者の気持ち(要望など)
- 加害の児童生徒および保護者の気持ち(事情など)
- 双方の過去・現在の関係性
- 周りの児童生徒からの聴き取り内容
- 連携した専門家・関係機関からの見立て など
これらの情報を踏まえて全体像を把握できなければ、適切な対応策(支援・指導・助言)を立案することは困難です。
実際、対策組織の会議では、全体像を把握しようとする発言が増える傾向にあります。
そのため、この場面において「早さ」の優先順位が相対的に低くなるのは、やむを得ない面があるでしょう。

3 トライアングルを意識した情報共有
(1)何かが犠牲になる
情報共有において、
「早くて、正確で、抜け漏れがない」状態を常に目指そうとすると、現場は次第に苦しくなります。
そのようなとき、「情報共有のトライアングル」を思い出すことが大切です。
「いずれか2つしか満たすことができない」
そのように整理すると、心理的負担は軽減されます。
例えば、
「まだ分からないことが多いが、まずは報告/相談しよう」
「時間はかかるが、全体像を丁寧に把握しよう」
「詳細な報告には時間がかかることを、あらかじめ相手に伝えておこう」
このように「今、何を優先するのか」を意識することで、無理のない情報共有が可能になります。
ただし、極端に一つへ偏るのは危険です。
例えば、正確性10点、網羅性10点、早さ2点 といったように、
大きくバランスを崩せば、組織の業務に支障をきたしかねません。
学校現場でこのトライアングルを資料として活用し、
「事案発生時は、個人で網羅性を求めず、早く・正確に報告しましょう」(抱え込まない)
「組織で協力すれば、時間を短縮しながら網羅性を高められます」(協力体制が重要)
と確認することで、
教職員は組織的対応のイメージを持ちやすくなるでしょう。

(2)常に「正確性」が最重要
不確かな情報をもとに、学校としての対応策を検討できるでしょうか。
情報共有において最も重視すべきなのは、「正確性」です。

「正確性」を確保するポイント
情報共有は、「事実を客観的に伝える」ことが基本です。
特に、児童生徒や保護者の発言は、一語一句変えず報告することが重要です。
事実の報告に私見や憶測を混ぜると、
受け手を混乱させ、組織を誤った方向へ導く危険があります。
いわば、「(私見や憶測を)まぜるな危険」です。
情報を伝える側には、
話しながら自己チェックを行う集中力が求められます。
一方、情報を受け取る側にも、
事実が明確でない情報に対しては、半信半疑の姿勢をとる慎重さが必要です。
もっとも、業務の中では、
担当者だからこそ感じ取れることや推測できることもあります。
特に懸念事項やリスクは、抱え込まず共有すべきです。
その際には、次のような工夫が有効です。
- 事実を客観的に伝えた後に、「私見ですが」と前置きして話す
- 「私には〇〇な表情に見えました」「私の推測ですが」と、主語を明確にして話す
- そのように考えた根拠をあわせて説明する(推測と憶測の違いは、根拠の有無です)
このように整理して伝えれば、受け手の誤解を防ぐことができます。

まとめ
- 情報共有において、「早さ」「正確性」「網羅性」の三つを同時に満たすことはできません
- 常に三つすべてを求めるのではなく、状況に応じて優先順位を意識することが重要です
- そして、その中でも「正確性」は最優先であることを忘れてはなりません
- トライアングルの考え方を理解し、状況に応じた情報共有を心がけることが、組織全体の安定と信頼につながります
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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