認知行動療法の一つであるREBTの「ABC理論」を解説しています。
前編では、イラショナル・ビリーフ(非合理的な考え)を見つけ、
それをラショナル・ビリーフ(合理的な考え)に置き換える方法を学びました。
後編では、このABC理論をさらに深掘りして、あなたが「自分自身のセラピスト」になる方法を紹介します。
前編を読んでいない方はこちら
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内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
6 事例でABCを考えてみよう
「ABC」が意味するものは次の通りです。
A: Activating Event 出来事
B: Belief(ビリーフ) 考え・信念
C: Consequence 結果(感情など)
では、次の事例を見てみましょう。
私は、同じ学年を担当しているY先生のことで悩んでいます。
Y先生は経験豊富ですが、業務の進行が遅く、締め切りを守れないことがよくあります。
そのため、学年の業務の多くを私が担うことになり、負担を感じています。
さらに先日、職員室でY先生が居眠りしている姿を見て、正直とても腹が立ちました。
「周りに迷惑をかけているという自覚があるのだろうか」と疑問に思います。
最近では、職員室で仕事しようとしてもイライラしてしまい、集中できません。

- 結果(C)は、何でしょうか?
感情と行動を挙げてみましょう
解答はこちら

解答は

- 出来事(A)は、何でしょうか?
感情(C)が最も強かった時を挙げてみましょう。
解答はこちら

解答は

- イラショナル・ビリーフ(B)は、何でしょうか?
「ねばならない」「べきである」を想像してみましょう
( )べきではない。
それがわからない人は、( )だ。
解答の一例として

「それがわからない人は・・・」という考えは、見逃されがちですが、
本人が強い怒りを感じていることから、この考えも持っていることが推測されます。
解答の一例として

「それがわからない人は・・・」という考えは、見逃されがちですが、
本人が強い怒りを感じていることから、この考えも持っていることが推測されます。
- 上記のイラショナル・ビリーフを、ラショナル・ビリーフに変えると、どのような文章になるでしょうか?
どのような考えに変えたら、怒り・イライラが軽減し、今より仕事に集中できるでしょう。
周りに迷惑を( )が、( )人もいる。
不快ではあるが、耐えられない( )。
業務が遅いことは課題だが、その人の社会人としての価値とは( )。
解答の一例として

大切なのは、「確かに…」と少し腑に落ちる言葉を作ることです。
ラショナル・ビリーフに置き換えたことで、結果(C)がどのように変わったか確認してください。
解答の一例として

大切なのは、「確かに…」と少し腑に落ちる言葉を作ることです。
ラショナル・ビリーフに置き換えたことで、結果(C)がどのように変わったか確認してください。

7 健康でネガティブな感情
先ほどの事例で、ラショナル・ビリーフに置き換えたあとの結果(C)は、
「不愉快、仕事に集中できる」でした。
このような感情は、「健康でネガティブな感情」と呼ばれます。


どちらの結果(C)もネガティブなので、一見すると、少し違和感があるかもしれません。
しかし、先ほどの事例でいえば、本人は業務に負担を感じているので、
その状況でポジティブな感情になるほうが、むしろ不自然で、無理があります。
注目していただきたいのは、「健康で」と「不健康で」の違いです。
「健康でネガティブな感情」は、適度な精神的苦痛を生み、生活や仕事を邪魔しません。
「不健康でネガティブな感情」は、過剰な精神的苦痛を生み、生活や仕事に悪影響を与えます。
人生において、適度な精神的苦痛は避けられないものですし、ある意味では必要なものかもしれません。
しかし、過剰な精神的苦痛は、生活や仕事に問題が生じさせ、人生を望まない方向へ進めてしまいます。
つまり、ABC理論が目指しているのは、
精神的苦痛を「過剰」から「適度」に変えること。
そして、
ほどほどになって
人生をやっていけること
ABC理論を基盤とするREBTは、「生き抜く(Survival)」と「人生楽しむ(Enjoy)」を目指す心理療法です。

8 自分の考えにツッコミを入れる
ラショナル・ビリーフのように考えられたら、確かに良いけど、
自分の考え・信念(B)を変えるのは簡単ではない、と感じる人は多いかもしれません。
それはごく自然なことです。
これまでずっとイラショナル・ビリーフを「正しい」と信じてきたのですから、簡単に変えられないのは当然です。
大切なのは、時間をかけて取り組むこと。
そして、イラショナル・ビリーフに対して「正しいのかな?」と疑いの目を向けてみることです。
そこで役立つのが「ツッコミ」です。
ツッコミの視点は3つ
(1)論理的な根拠はある?
(2)現実と合っている?
(3)持ち続けると役立つ?
先ほどのイラショナル・ビリーフで、やり方を見てみましょう。
イラショナル・ビリーフ
「人に迷惑をかけるべきではない。
それがわからない人は、社会人として失格だ。」
このイラショナル・ビリーフに、「なんでやねん?!」とツッコミを入れてみます。
(1)論理的な根拠はある?
「そのルールは誰が決めたの?!法律(根拠)があるの?!」
「業務が遅い人は、疲れて居眠りすることも禁止されているの?!」
ツッコミを受けると、実はルールを決めていたのは「自分」であることに気づけます。
そして、「迷惑をかけないでもらいたい」という表現の方が、ずっと論理的だとわかります。
(2)現実に合っている?
「社会人って、本当に誰にも迷惑をかけていないの?!」
「世の中の社会人(教職員)のうち、何割が失格になるの?!」
ツッコミが言うように、現実は思い通りにならないことも多いものです。
結果、「そうであってほしいが、そうならないこともある」に方が現実的だとわかります。
(3)持ち続けると役立つ?
「この考えを持ち続けることが、自分のためになる?!」
「業務を多く担うのは大変だよね。どう考えたら自分が楽だろう?」
ツッコミが新しい視点となり、「何が正しいか」から「何が自分のためになるか」へと視点が切り替わります。
人は「そうであってほしい」という望みをエスカレートさせ、
やがて「ねばならない」という非合理的な考えにしてしまいがちです。
だから、時々「なんでやねん?!」と自分にツッコミを入れることで、冷静さを取り戻す必要があるのかもしれません。
ツッコミを入れたあとは、遠慮せずに笑ってください。
「ツッコミ」を入れて
イラショナル・ビリーフを弱める

9 ワークで練習してみよう!
次のイラショナル・ビリーフに、ツッコミを入れてみましょう。
- イラショナル・ビリーフ
「私は、すべての児童生徒から好かれなければならない。そうでなければ恐ろしい。」
解答の一例として
(1)論理的な根拠はある?
「他の先生にも同じことが言える?!」
(2)現実と合っている?
「すべての児童生徒から好かれている先生って、どこにいるの?!」
(3)持ち続けると役立つ?
「そんなプレッシャーで、長い教員生活を楽しくやっていける?!」
ラショナル・ビリーフは
「私は、児童生徒から好かれたいが、好かれないこともある。それは残念なことだが、恐れることではない。」
- イラショナル・ビリーフ
「児童生徒は、ルールを守らなければならない。そうでなければダメな人間だ。」
解答の一例として
(1)論理的な根拠はある?
「これは誰が決めたこと?!」
(2)現実と合っている?
「自分は、すべてのルールを守り続けている?!」
(3)持ち続けると役立つ?
「この考えは、自分を幸せにしている?!」
ラショナル・ビリーフ
「児童生徒には、ルールを守ってほしいが、守れないこともある。それは学びの途中であり、その児童生徒の価値とは関係がない。」
- イラショナル・ビリーフ
「保護者は、学校の教育に協力的であるべきだ。そうでなければ、やってられない。」
解答の一例として
(1)論理的な根拠はある?
「学校って、本当にそんなに正しくて偉いの?!」
(2)現実と合っている?
「『やってられない』って、実際どうなるの?!」
(3)持ち続けると役立つ?
「これからも大変な仕事は続くよね。少しでも楽になる考え方は?」
ラショナル・ビリーフ
「保護者が、学校の教育に協力的だといいなと思うが、そうでないこともある。思うようにいかないこともあるが、やっていけないほどではない。」

「ビリーフ(B)を変えることで、感情(C)を変えられる」ということは、
自分の感情は、自分で調整し選択できる ということです。
そのため、ABC理論を理解している人は、「相手から嫌な気持ちにさせられた」とは言いません。
「自分が嫌な気持ちになっている」と、自分を主語にして感情を表現します。
考えの持ち主が自分であれば、感情の持ち主も自分なのです。
まとめ
- ビリーフを置き換えると、結果(C)は「不健康でネガティブな感情」から「健康でネガティブな感情」に変わる。
- 自分のイラショナル・ビリーフに「ツッコミ」を入れることで、その考えの力を弱めることができる。
- 「生き抜く(Survival)」と「人生楽しむ(Enjoy)」を目指したい方は、REBTを学ぶことをオススメします。
REBTに関する読みやすいの書籍は
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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