「教師は、常にきちんと指導しなければならない。」
「児童生徒は、教師の指導を素直に聞くべきだ。」
多くの教職員が、「そう通り」とうなずく言葉です。
しかし、こうした考えを強く持ちすぎると、心の健康を崩してしまうことがあります。
このコラムでは、教職員が「自分自身のセラピスト」となり、ストレスを軽減する方法を紹介します。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 ABC理論
ABC理論は、認知行動療法の一つであるREBTという心理療法の基本概念です。
「ABC」が意味するものは次の通りです。
A: Activating Event 出来事
B: Belief(ビリーフ) 考え・信念
C: Consequence 結果(感情など)
では、次の先生の事例で考えてみましょう。

ある児童生徒への指導が、うまくいきません。
自分に原因があるように感じ、憂うつで教室に向かう足も重くなっています。
恥ずかしくて誰にも相談できず、周りからの協力も得られません。
ある児童生徒への指導が、うまくいきません。
自分に原因があるように感じ、憂うつで教室に向かう足も重くなっています。
恥ずかしくて誰にも相談できず、周りからの協力も得られません。
このような状態は、次のように誤って捉えられがちです。


出来事(A)があったから、結果(C)になった
出来事(A)があったから
結果(C)になった
しかし実際には、同じ出来事(A)に直面しても、すべての教師が同じ結果(C)になるわけではありません。
「自分に怒りを感じる」「信頼できる人に相談する」「教育の奥深さに興味を持つ」など、さまざまです。
この違いを生み出すのが 考え・信念(B)です。
今回の先生は、次のように考えていました。


出来事(A)に対して
ある考え・信念(B)を持ったから、結果(C)になった
出来事(A)に対して
ある考え・信念(B)を持ったから
結果(C)になった
このように考えたら、憂うつや羞恥を感じるのも無理はありません。
結果(C)に苦しんでいるとき、原因の大半は、出来事(A)ではなく、考え・信念(B)にあります。
そこで、この先生は考え方を、次のように変えてみました。


出来事(A)が変わらなくても
考え・信念(B)を変えることで、結果(C)は変えられる
出来事(A)が変わらなくても
考え・信念(B)を変えることで
結果(C)は変えられる
この先生は、新しい考え方を頭の中でつぶやくだけで、気持ちが少し楽になりました。
そして、結果(C)が変わることで、「出来事(A)を変えるための行動」も取りやすくなりました。

人を悩ませるのは出来事そのものではなく
その出来事に対する受け取り方である
2 ビリーフ(考え)に注目する
考え・信念(B)には2種類あります。
- イラショナル・ビリーフ(非合理的な考え)
- ラショナル・ビリーフ(合理的な考え)
ビリーフ(Belief)は「考え」
ラショナル(Rational)は「合理的な」 その否定形がイラショナル(Irrational)です。
「合理的」の解説は後編のコラムに回し、ここではすぐ使えるよう、具体的な話から始めましょう。
イラショナル・ビリーフは、不健康な感情や非機能的な行動を生みますが、
ラショナル・ビリーフは、健康な感情や機能的な行動につながります。


3 イラショナル・ビリーフ
イラショナル・ビリーフは、次のような形になっています。
「〇〇でなければならない。そうでなければ〇〇だ。」
(1)「〇〇でなければならない」
「ねばならない思考」「べき思考」と呼ばれるものです。
例えば
- 「私は、いつも良い仕事をしなければならない。」
- 「児童生徒は、ルールを守るべきである。」
- 「教師は、児童生徒を傷つけるような人間であってはならない。」
これだけ見ると、「まぁ、そうかな」とうなずく先生も多いと思います。
ただ、「当たり前でしょう!」「そうじゃないわけがない」と強く信じている場合、
おそらく、次の「そうでなければ〇〇だ」という考えもあるのではないでしょうか。
(2)「そうでなければ〇〇だ」
隠れていることが多い、極端な評価を表す言葉です。
例えば
- 恐ろしいビリーフ
- 「私は、すべての児童生徒から好かれなければならない。そうでなければ恐ろしい。」
- 「教師は、児童生徒を傷つけるような人間であってはならない。そんな教師は最悪だ。」
- 耐えられないビリーフ
- 「管理職は、リーダーシップを発揮しなければならない。そうでなければ耐えられない。」
- 「保護者は、学校の教育に協力的であるべきだ。そうでなければ、やってられない。」
- 価値がないビリーフ
- 「私は、いつも良い仕事をしなければならない。そうでなければ、価値がない。」
- 「児童生徒は、ルールを守らなければならない。そうでなければダメな人間だ。」
自分の中に「ねばならない」を見つけたら
「そうでなければ・・・?」と自問してみましょう
自分の中に「ねばならない」を
見つけたら
「そうでなければ・・・?」と
自問してみましょう
現実は、常に良い仕事ができるわけがなく、ルールを守れない児童生徒や、時に児童生徒を傷つける先生も存在します。
そのため、イラショナル・ビリーフ(B)を持っていると、
出来事(A)が起きたときに、結果(C)で強いストレスや悩みを抱えやすくなります。

4 ラショナル・ビリーフ
イラショナル・ビリーフをラショナル・ビリーフに置き換えることで、
結果(C)を変えることができます。


ラショナル・ビリーフは、次のように作ります。
「〇〇であってほしいが、そうならないこともある。
〇〇でないのは嫌だが、最悪ではない。」
(1)「〇〇であってほしいが、そうならないこともある」
「ねばならない」を、次のように変更します。
〇〇であってほしいが、そうならないこともある。」
「〇〇だといいなと思うが、〇〇でないこともある。」
「例えば
- 「私は、いつも良い仕事をしなければならない。」
「私は、いつも良い仕事をしたいが、そうできないこともある。」 - 「管理職は、リーダーシップを発揮しなければならない。」
「管理職には、リーダーシップを発揮してもらいたいが、そうでないこともある。」 - 「教師は、児童生徒を傷つけるような人間であってはならない。」
「教師は、児童生徒を傷つけない人であってほしい。しかし、そうでない教師もいる。」
現実的な文章に変わったと思いませんか? 現実の世界は複雑なので、文章も長くなります。
さらに次の文章も付け加えてみましょう。
(2)「〇〇でないのは嫌だが、最悪ではない」
「終わりだ」「耐えられない」を、次のように変更します。
〇〇でないことは悪いことだが、終わりではない。」
「〇〇でないことは嫌だが、耐えられないほどではない。」
「例えば
- 「私は、いつも良い仕事をしなければならない。そうでなければ、価値がない。」
「私は、いつも良い仕事をしたいが、そうできないこともある。
それは残念なことだが、私の価値とは関係がない。」 - 「管理職は、リーダーシップを発揮しなければならない。そうでなければ耐えられない。」
「管理職には、リーダーシップを発揮してもらいたいが、そうでないこともある。
そのような管理職に不満はあるが、耐えられないほどではない。」 - 「教師は、児童生徒を傷つけるような人間であってはならない。そんな教師は最悪だ。」
「教師は、児童生徒を傷つけない人であってほしい。しかし、そうでない教師もいる。
それは大きな課題だが、その教師にも良い面はあり、それだけで最悪とは言えない。」
- 「私は、いつも良い仕事をしなければならない。そうでなければ、価値がない。」
「私は、いつも良い仕事をしたいが、そうできないこともある。それは残念なことだが、私の価値とは関係がない。」 - 「管理職は、リーダーシップを発揮しなければならない。そうでなければ耐えられない。」
「管理職には、リーダーシップを発揮してもらいたいが、そうでないこともある。そのような管理職に不満はあるが、耐えられないほどではない。」 - 「教師は、児童生徒を傷つけるような人間であってはならない。そんな教師は最悪だ。」
「教師は、児童生徒を傷つけない人であってほしい。しかし、そうでない教師もいる。それは大きな課題だが、その教師にも良い面はあり、それだけで最悪とは言えない。」
文末の「ではない」「とは言えない」で、極端な評価を否定するのがポイントです。
「過度な要求」や「極端な評価」に気づいて
ほどほどに調整する
最後に、ワークで練習してみましょう!

5 ワークで練習してみよう!
次のイラショナル・ビリーフを、ラショナル・ビリーフに言い換えてみましょう。
- イラショナル・ビリーフ
「私は、すべての児童生徒から好かれなければならない。そうでなければ恐ろしい。」
解答はこちら
ラショナル・ビリーフ
「私は、児童生徒から好かれたいが、好かれないこともある。それは残念なことだが、恐れることではない。」
- イラショナル・ビリーフ
「児童生徒は、ルールを守らなければならない。そうでなければダメな人間だ。」
解答はこちら
ラショナル・ビリーフ
「児童生徒には、ルールを守ってほしいが、守れないこともある。それは学びの途中であり、その児童生徒の価値とは関係がない。」
- イラショナル・ビリーフ
「保護者は、学校の教育に協力的であるべきだ。そうでなければ、やってられない。」
解答はこちら
ラショナル・ビリーフ
「保護者が、学校の教育に協力的だといいなと思うが、そうでないこともある。思うようにいかないこともあるが、やっていけないほどではない。」

まとめ
- 出来事(A)が変わらなくても、考え・信念(B)を変えることで、感情など(C)は変わる。
- 「ねばならない」「べきである」「そうでなければ〇〇だ」といった考えは、イラショナル・ビリーフ(非合理的な考え)であり、精神的健康を損なう原因になる。
- イラショナル・ビリーフをラショナル・ビリーフに置き換えることで、結果(C)の健康的・機能的になり、精神的健康の向上につながる。
- 「でも、考えを変えるのは簡単じゃない」と感じている方は、後編をお楽しみに!
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