「失敗の責任追及」ではなく、「成功の責任追及」です。
「うまくいったのに、なぜ責任を追及するの?」と、不思議に思うかもしれません。
でも、このコラムを読み終えるころには、「成功のときこそ、責任追及しよう!」と思っていただけるはずです。
このコラムでは、児童生徒の強みに光を当て、その力を伸ばす問いかけ術を、具体例とともに紹介します。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 成功の責任追及とは
解決志向アプローチの技法の一つです。
その意味は文字通り、
うまくいったことに対して、その理由を問いかけること
うまくいったことに対して
その理由を問いかけること
先生同士の会話では、
例1 授業が上手な先生に
どんな工夫をされているんですか?」
「授業、いつも上手ですよね!例2 机の上がきれいな先生に
どうやって維持しているんですか?」
「いつも整理されていますよね。「どうやったの?」「どんな工夫を?」と、うまくいった理由を問いかけます。
ヒーローインタビューのような会話です。
ここでいう「成功」は、大きな成果に限りません。
うまくいったこと以外にも、
- 問題が起こらなかったこと
- ちょっとましだったこと
- たまたま起きたように思える良い変化
これらに対しても、「どうやったの?」「どんな工夫を?」と問いかけます。
先生同士の会話では、
例3 不登校傾向の児童生徒の様子について
どんなふうに接しているんですか?」
「〇〇さん、教室には戻れてないけど、表情が明るくなりましたよね!例4 児童生徒のトラブルの減少について
どんな指導をされたのですか?」
「最近、先生の学級、少し落ち着きましたよね!これらは、「問題」の中にある「小さな良い変化」に注目した問いかけです。
こうした質問を受けた先生は、自分の対応を振り返り、
自分の「できていること」や「もっているもの」に気づくことができます。
例えば
できていること
例3「〇〇さんの好きな話題で楽しく会話できている」
例4「大変なことは多いけど、粘り強く話を聴いて、指導している」
もっているもの
例3「児童生徒を笑顔にするのが得意なのかも(強み)」
例4「話を聴くことを大切にしている(価値観)」
このようなやりとりで、先生の自信が高まることもよくあります。
人は「うまくいった理由」を問われると
自分の「できていること」「もっているもの」を探し始める
人は「うまくいった理由」を
問われると
自分の「できていること」
「もっているもの」を探し始める

「解決志向アプローチ」はこちら
↓ ↓ ↓

2 学校での活用例
具体例1 うまくいったこと①

先生~
成績が上がりました!すごくないですか?

すごいよ!がんばったね!

ですよね!

うんうん!
それで、どうやって成績を上げたの?
(成功の責任追及)

・・・

何か変えたことがあるんじゃない?
(成功の責任追及)

変えたこと?
あ、少し勉強時間が増えたかも・・・
ゲームをあまりしなくなったから

そう〜、たいしたもんだよ!
- Aさんは、「成績が上がった理由」を振り返り、自分の「できていること」に気づいています
- 先生は結果だけでなく、その過程をAさんの努力として認めています
「ほめ言葉 + 成功の責任追及」で
うまくいった理由への気づきを促す

具体例2 うまくいったこと②

Bさんは、いつも笑顔が素敵だよね〜

そうですか?

一緒にいると楽しくなるよ
どうしたらそんなふうにできるの?
(成功の責任追及)

どうしてだろう・・・

何か大切にしていることがあるの?
(成功の責任追及)

・・・
せっかくなら、楽しく過ごしたいじゃないですか
暗い顔してたって、良いことないし
うちのおばあちゃんが、そういう人だから、似たのかも

とても良い考え方だね
おばあちゃんも素敵な方なんだね

そうなんですよ!
私、おばあちゃんが大好きで
- Bさんは、自分の行動の背景や価値観を振り返り、言葉にできています
- 先生は、その価値観と大切な存在を認めることで、信頼関係を深めています
「うまくいった理由」は
質問されなければ、なかなか考えない

具体例3 問題が起こらなかったこと
~相談の場面にて~

Cさん、最近は表情が穏やかに見えるわ

はい。少し気持ちが安定してます

よかった~
どうやって気持ちを安定させているの?
(成功の責任追及)

・・・そうですね
あまり考えすぎないようにしているというか・・・
「考えても仕方ないことだな」って思うようになって

考えても仕方ないこと・・・

はい。考えても疲れるだけだから
「まぁ、いいか」って思うようにしていて

「まぁ、いいか」って、いい言葉だね~
どうやってそう思えるようになったの?
(成功の責任追及)

吹っ切れたというか・・・頭に浮かんだんです
- Cさんは、自分の内面を言葉にしながら、「気持ちを整える工夫」を整理できています
- 先生は助言をせず、話を聴くことでCさんの自己効力感(自分で対処できる感覚)を高めています
役に立つのは、助言よりも
「うまくいった理由」を聴くこと

3 期待できる効果
(1)成功を「本人のお手柄」にする
「成功の責任追及」は、主語を「あなた」にする問いかけです。
- 「(あなたは)どうやったんですか?」
- 「(あなたは)どんな工夫をしたんですか?」
- 「(あなたは)どんなふうに努力しているんですか?」
この問いには、「成功を引き起こしたのはあなたです」というメッセージが込められています。
そのため、一見「たまたまうまくいった」ものであっても、
問いかけを通じて、成功を「本人のお手柄」として扱うことができます。
先ほどのAさんの例では、

すごいよ!がんばったね!
それで、どうやって成績を上げたの?
(成功の責任追及)

・・・

何か変えたことがあるんじゃない?
(成功の責任追及)

変えたこと?
あ、少し勉強時間が増えたかも・・・
ゲームをあまりしなくなったから
Aさんは当初、「たまたま成績が上がっただけ」と思っていたかもしれません。
しかし、問いかけを受けることで、「自分の行動によるもの」という感覚が芽生えています。

(2)問いかけ自体が「賞賛」になる
NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」をご存知でしょうか?
番組の最後、エンディングテーマが流れる中で、出演者に問いかけられる有名な質問があります。
「あなたにとってプロフェッショナルとは?」
これは、日本で最も有名な「成功の責任追及」といえるでしょう。
この問いには、「あなたはプロフェッショナルです」「あなたの考え方には価値があります」
という無言の賞賛が含まれています。
同じように、
- 「どうやったんですか?」
「あなたの行動が良かった」という賞賛 - 「どんな工夫をしたんですか?」
「あなたはうまくやっている」という賞賛 - 「どんなふうに努力しているんですか?」
「あなたは簡単ではないことをやっている」という賞賛
先ほどのBさんの例も、

一緒にいると楽しくなるよ
どうしたらそんなふうにできるの?
(成功の責任追及)
あなたは特別なことをしている」という無言の賞賛が含まれています。
「そのため、相手は嬉しい気持ちになり、
たとえその場で答えが出なくても、あとで「うまくいった理由」を考え続けることが多くなります。

文脈と口調を誤ると、「失敗の責任追及」に聞こえる
例えば、
「半分も間違っている!どうやって勉強したの?」
「半分も正解できている!どうやって勉強したの?」
同じ言葉でも、前後の雰囲気が違えば文脈が変わり、意味は真逆になります。
問いかけの前には、しっかりと相手をほめること。
そして、少し明るい口調で、
「成功について聞きたい」という意図を相手に伝えるようにしましょう。
(3)うまくいったことを再現できる
最後は、もっとも重要な効果です。
うまくいった理由を聴くことは、うまくいったことを再現することにつながります。
先ほどのCさんの例では、

どうやって気持ちを安定させているの?
(成功の責任追及)

・・・そうですね
あまり考えすぎないようにしているというか・・・
「考えても仕方ないことだな」って思うようになって

考えても仕方ないこと・・・

はい。考えても疲れるだけだから
「まぁ、いいか」って思うようにしていて

「まぁ、いいか」って、いい言葉だね~
Cさんは、「自分の気持ちの整え方」を言葉にしています。
先生に認められたことで、「この方法が自分に役立つ」という実感が強まっていそうです。
おそらく、Cさんは今後もこの方法を繰り返すでしょう。
うまくいった理由を繰り返すことは、うまくいったこと(Cさんの気持ちの安定)の再現につながります。
「成功の責任追及」で引き出した答えは、うまくいくためのヒントです。
それを活用しないのは、もったいないことです。
大切なのは、
「できていること」を続ける
「もっているもの」を活かす
これを本人が自分の意思でやろうと思うことが大切です。
もし先生が「『まぁ、いいか』と思うことを、今後とも続けましょう」と助言してしまえば、
本人は、自分のお手柄が先生に奪われたように感じ、意欲を失うかもしれません。
ヒーローインタビューの途中で、監督を登場させてはいけません。
最後まで、「良いことしているね」「良いものを持っているね」というメッセージを伝え続け、
「成功を引き起こすのは、あなたです」という信頼感で、「成功の責任追及」の姿勢を貫いてください。

まとめ
- 「ほめ言葉+成功の責任追及」のセットで、うまくいった理由について問いかける
- 「どうやったの?」「どんな工夫を?」と問いかけると、
問いかけられた児童生徒は、自分のできていること、もっているものを探し始める - できていることを続け、もっているものを活かすことで、うまくいったことは再現できる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
PSYCLA サイクラ は、臨床心理学・心理学の理論・技法を、教育現場で活用しやすい形に再構成し、わかりやすい情報として提供しています。