【応用行動分析 ABA】怒らず、叱らずに、児童生徒の気になる行動を減らす(後編)&ChatGPT活用法

授業中に私語をやめず、静かにならない。消しゴムを細かく砕いて、教室内で投げ合う。

立ち歩いて、教室から出て行く。先生の指示に反発する。イライラして他の児童生徒を叩く。

このような行動を減らすには、どうすればよいのでしょうか?

応用行動分析(ABA)に基づいた分析と対応について、前編後編の2回に分けて解説しています。

前編から読みたい方はこちら

↓ ↓ ↓

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

6 気になる行動を減らす方法 その2

今回もRさんの事例で、授業中に「大きな声で歌う」行動を減らす方法を一緒に考えてみましょう。

事例はこちら

Rさんの事例を確認したい
<事例>
小学5年生の男子児童Rさんは、授業中に大きな声で歌を歌います。
その声は、教室のすべての児童に聞こえるほどの大きさです。
先生は「静かにしなさい」「歌うのをやめなさい」と注意します。
Rさんは一旦歌うのをやめますが、しばらくするとまた歌い始めます。
そのため、先生は授業を中断して、授業中のルールについて話すことになります。
このような行動は3か月以上続いており、先生は疲れを感じています。
周囲の児童の反応はさまざまで、「好きだね〜」「なに、その歌?」と笑う児童もいれば、
ほとんど反応せず授業を受け続ける児童もいます。
なお、Rさんは学習面に苦手さがあり、先生の指導に対して反発するような発言をすることもあります。

「その1(前編のコラム)」は、行動が起きた後の対応でしたが、「その2」は、行動が起こる前の工夫です。

(1)気になる行動が起こりにくい事前の工夫

ABC分析の「直前(A)」を確認すると、

3つのきっかけが考えられました。

これらのきっかけが存在することで、気になる行動が起こりやすくなっていると考えられます。

そこで、これらのきっかけを減らすための事前の工夫を検討してみます。

例えば

Rさんの注目されたい気持ちを満たすために

先生が声をかけやすい座席への変更や、気になる行動が見られないタイミングで積極的に声をかけるといった対応を行っていきます。

また、すでに多くの場面で実施されていることではありますが、

学習のポイントを視覚的な情報で伝えるなど、Rさんに合わせた学習支援をさらに充実させていきます

(2)適応的な行動が起こりやすい事前の工夫

「その1(前編のコラム)」で選出した「適応的な行動(B)」を確認すると、

5つの適応的な行動が考えられました。

これらの行動を強化するためには、その行動が実際に起こることが必要です。

そこで、これらの行動が自然に生じるような工夫について、検討してみます。

例えば

授業のはじめに、「授業中のルール」や「授業の流れ」を視覚的な情報とともに、児童にわかりやすく伝えます

Rさんに適応的な行動が見られたときや、学級全体としてルールが授業時間の半分でも守れた場合には、

先生が認めたり感謝したりする言葉をかけて行動を強化します。

ルールが守れなかった場合でも、感情的に注意することはしません(強化しない)。

授業の流れには、児童が話し合ったり、発言できる時間を含め、その時間がいつなのか見通しをもてるようにします

7 ストラテジーシート

応用行動分析(ABA)を実践する際の便利ツールとして、「ストラテジーシート」をご紹介します。

このシートは、井上雅彦先生(鳥取大学大学院医学系研究科)が作成されたものです。

ABC分析や具体的な対応策の検討を、よりスムーズに行えるようになります

出典:国立障害者リハビリテーションセンターホームページ(リンク先からPDFをダウンロードできます)

Rさんの事例でストラテジーシートを作成してみました。

校内ケース会議でも活用しやすいシートです。

会議が成功するポイントは、これまでの先生の対応(C)を責めたり反省したりするのではなく、

「やってみたいアイディア」や「試してみたい対応」をできるだけ多く出すことです。

8 ChatGPTを活用したアイディア出し(コピペ可)

ABC分析や具体的な対応策の検討に、ChatGPT(無料版)を活用する方法を紹介します。

やり方は簡単で、次の「入力内容」をコピペして、実行するだけです

<入力内容>

#命令書:
あなたは、応用行動分析の専門家です。
以下の事例に基づいて、ABC分析(機能分析)を行ってください。
そのうえで、次の4つの対応策について、できるだけ具体的かつ実践的に提案してください。
また、それぞれの提案には、なぜその対応が効果的なのか、応用行動分析の視点から簡単に理由も添えてください。
①事前の対応(気になる行動を起きにくくするための具体的な方法)
②適応的な行動(児童生徒の望ましい行動の具体例)
③上記②を強化するために、教職員が行う具体的な対応
④気になる行動が起きたときに、行動を強化しないために、教職員が行う具体的な対応
#事例:
(ここに事例を入力します)
個人情報を含む記録をそのまま貼り付けないように気をつけてください。

<出力結果>

Rさんの事例で、実行した結果です(読みやすく整えたもの)

了解しました。では、Rさんの事例に基づき、応用行動分析の視点からABC分析を行い、そのうえで具体的な対応策を提案します。

## ABC分析(機能分析)
Antecedent(先行条件)

・授業中、先生が授業を進めている状況。
・Rさんが学習に苦手さを感じている状況。
Behavior(行動)
・大きな声で歌を歌う。
Consequence(結果)
・先生が注意する(注目を与える)。
・授業が中断される(活動回避)。
・一部の児童が笑ったり反応する(仲間からの注目)。

## 推定される行動の機能
・注目の獲得(先生や友達の反応を得たい)。
・課題からの回避(苦手な学習や指導から逃れる)。

## 対応策の提案
① 事前の対応(気になる行動を起きにくくするための具体的な方法)

・授業前に視覚的にルールを明示(例:ホワイトボードに「授業中のきまり:①話すときは手をあげよう、②歌は休み時間に歌おう」など)。
・学習活動を小さく分け、達成可能な段階で提供。
・事前に役割を与える(「授業中の時間係」や「教材配布係」など)ことで、参加意欲を引き出す。
【理由】先行事象の変更は問題行動の発生を予防する有効な方法です。視覚的支援や役割付与により、「注目」や「自己効力感」が適切な手段で得られやすくなり、不適切な行動の機能を事前に代替します。

② 適応的な行動(児童生徒の望ましい行動の具体例)
・学習が難しい場面で「助けてください」と求める言葉を使う。
・休み時間に「〇〇の歌を歌っていいですか?」と許可を求める行動。
・授業中に指示が出た際、黙って取り組もうとする姿勢。
【理由】適応行動とは、問題行動と同じ機能(注目・回避)をもつが、社会的に望ましい形の行動です。このような行動を強化することで、問題行動の必要性が減少します。

③ 上記②を強化するために、教職員が行う具体的な対応
・「今、ちゃんと手をあげて話してくれたね。ありがとう!」と即時・具体的な賞賛を与える。
・授業後や小テスト後に、「今日は静かに参加できたね」と静かに声をかける(仲間に聞こえないように個別で)。
・「歌いたい気持ち、〇〇の時間に聴かせてね」と希望を肯定的に受け止め、別の機会を設ける。
【理由】強化は行動を増加させる主要な手段です。望ましい行動の直後に具体的な肯定を与えることで、問題行動の代わりに適応的行動を選ぶようになります。

④ 気になる行動が起きたときに、行動を強化しないために、教職員が行う具体的な対応
・できる限り無反応を貫き、注目を与えない(他の児童に「無視して授業を続ける」よう協力を仰ぐ)。
・行動終了後、落ち着いてから個別に対応(「今の時間、どう過ごすとよかったかな?」と振り返り)。
・即座に授業に戻ることで、行動による「授業の中断」を最小限にする。
【理由】行動の直後に得られる結果がその行動を維持させます。問題行動に注目や回避の機会を与えると、それが強化になります。逆に、強化を断つことでその行動は自然に減少します(消去)。

## まとめ
Rさんの歌う行動は、「注目の獲得」や「課題回避」の機能が疑われます。したがって、行動の機能に見合う適応的行動を教え、強化し、不適切な行動には強化を与えない(注目・回避の機会を減らす)対応が必要です。

もう一度、実行したら、違う対応案も出力されました。複数回の実行がオススメです

気になる行動が複数ある場合は、「気になる行動は〇〇〇〇」と具体的に入力してください。

アイディア出しとして、十分に活用できると思います。

9 罰・叱りによる副作用

最後に、タイトルの回収です。

応用行動分析(ABA)の専門家が、どうして罰・叱りによる「弱化」で、気になる行動を減らそうとしないのか・・・

それは、罰・叱りには次のような副作用があると考えられているからです。

罰・叱りによる副作用

受ける側も使う側も、不快な気持ちになる

罰や叱りは、双方に心理的な不快感をもたらす

行動自体が減少する

叱られないようにするために、何もしなくなる

効果は一時的で、持続しにくい

罰・叱りを使う人物がその場にいるときだけ、行動が抑制されるにとどまる

新しい行動を教えていることにならない

代わりとなる適応的な行動の強化が重要である(前編のコラムを参照)

罰を使う側が、エスカレートしがちになる

罰の強度が増し、体罰や虐待につながる危険性がある

受けた側が、同様の行動を他者に向ける可能性がある

将来的に力関係で優位に立ったとき、同様の罰的なかかわりを繰り返す傾向がある

罰・叱りを無自覚に使って、望ましくない影響を与えてしまうよりも、

まずは行動の機能を分析し、それに代わる適応的な行動を見つけ、どのような強化ができるか考えることが大切です

理解に基づいた対応によって、児童生徒の成長をしっかりと支えていきたいものです

学校現場を見てみると、「叱りたくて叱っている」先生はゼロだと思います。

多くの先生方が、他にどうしたらいいのかわからずそれしか方法がないから叱っているのではないでしょうか。

そんなときこそ、応用行動分析(ABA)の理論が役に立ちます。

「叱る」から
「強化をうまく使い分ける」 へ

視点を切り替え、できることから一つずつ取り組んでいただけたら幸いです。

まとめ

  • 応用行動分析(ABA)を実践する際には、「ストラテジーシート」や「ChatGPT」を活用することで、よりスムーズに取り組むことができる
  • 応用行動分析(ABA)を学ぶことは、先生ご自身が日々の児童生徒とのかかわりの中で、何を「強化」し、何を「弱化」しているか・・・、その影響を振り返るきっかけにもなる

もっと知りたい先生へのオススメの書籍

本書で解説する応用行動分析を活用することで、その子の気になるところや悪い部分ばかりでなく、「良いところ」「きちんと行動できている部分」に目が向けられるようになる。子どもの気になる行動に困っている教師・親御さんにお勧めの一冊。

関連書籍のご案内
メリットの法則 行動分析学・実践編 集英社新書 奥田健次
保護者と先生のための応用行動分析入門ハンドブックー子どもの行動を「ありのまま観る」ためにー 金剛出版 井上雅彦(監修)三田地真実・岡村章司(著)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

PSYCLA サイクラ は、臨床心理学・心理学の理論・技法を、教育現場で活用しやすい形に再構成し、わかりやすい情報として提供しています。

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