【自殺の危険因子】学校における自殺予防 高リスクの児童生徒を発見するために(第1回)

2025年の小・中・高校生の自殺者数は532人となり、過去最多が報告されています(厚生労働省)。

どのような児童生徒が、自殺の危険に追い込まれているのでしょうか

その手がかりとして、統計や調査研究から整理されてきたのが「自殺の危険因子」です。

このコラムでは、児童生徒の自殺リスクに気づくための視点を、わかりやすく解説します。

配慮ある表現を心がけていますが、読んでいて疲れを感じた場合は、無理をせず、休みながら少しずつ読み進めてください。

厚生労働省の相談窓口案内ページへのリンク

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

1 はじめに

このコラムは、全3回のシリーズでお届けします。

テーマは、「高リスクの児童生徒に、私たちはどう気づけるのか」です。

学校現場に役立つ視点を、段階ごとに整理していきます。

第1回「自殺の危険因子」

主に、児童生徒から希死念慮が語られる前の段階のアセスメント

第2回「自殺リスクのアセスメント」

主に、児童生徒から希死念慮が語られたときのアセスメント

第3回「自殺前のサイン」

危険をできるだけ早い段階で察知するための視点と心構え

文部科学省「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」には、次のように書いてあります。

いじめや自殺が起こると、マスコミは「なぜ発見できなかったのか」「どうして防げなかったのか」と教師の責任を追及します。しかし、「それ以上に、生徒の自殺の危険に早期の段階で気づいて、教師が適切な救いの手を差し伸べている場合が圧倒的に多い」と、ある精神科医も指摘しているように、実際には教師の誠実な態度が多くの子どもの自殺を防いでいるのです

引用「第3章 自殺予防のための校内体制」

マーカーは当Webサイトが引いたもの

自殺予防は、見方を変えると「生きることへの支援」と捉えることもできます。

この先を読み進めながら、「生きることへの支援」について新たな視点や情報を得ていただければ幸いです。

それでは、第1回をはじめていきましょう。

2 自殺の危険因子

統計と調査研究によって整理された「自殺の危険因子」は、

複雑で見えにくい自殺リスクを、理解しやすい形で捉える手がかりとなります。

文部科学省「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」から引用すると、

このような因子を数多く認める子どもには潜在的に自殺の危険が高いと考える必要があるのです。

  • 自殺未遂
  • 心の病
  • 安心感のもてない家庭環境
  • 独特の性格傾向(極端な完全主義、二者択一思考、衝動性など)
  • 喪失体験(離別、死別、失恋、病気、怪我、急激な学力低下、予想外の失敗など)
  • 孤立感(とくに友だちとのあつれき、いじめなど)
  • 安全や健康を守れない傾向(最近、事故や怪我を繰り返す)

引用「第2章 自殺のサインと対応」

「自殺の危険因子」には、「長所」と「限界」があります。

限界は、あくまで統計に基づく項目であるため、

目の前にいる一人の自殺リスクを評価するには、それだけでは不十分である点です

たとえ該当する因子が一つであっても、

その人にとって重大な出来事であれば、リスクは高いと考えられます。

一方、長所は、統計や調査研究によって明らかにされた項目であるため、

中長期的な視点で自殺リスクをアセスメントする際の評価項目として活用できる点です

統計的に見ると、自殺に至った人の多くは、複数の因子を抱えています。

そのため、多くの因子に該当する児童生徒は、潜在的なリスクが高い可能性があると考えられます

「自殺の危険因子」で
潜在的なリスクを評価する

(1)危険因子を活用した自殺予防

  1. 気になる児童生徒を、危険因子で確認する

    例えば、いじめ被害、欠席の増加などの変化が見られる児童生徒について、

    危険因子に当てはまる項目がないかを確認します

    これは、気になる児童生徒を「高リスクの児童生徒」として捉え直すための対策です。
  2. 集団の中から、潜在的リスクの高い児童生徒を見つける

    学年や学級といった単位で、複数の危険因子に当てはまる児童生徒はいないかを確認します

    組織として高リスクの児童生徒を発見し、支援や見守りを強化します。

    これは、「潜在的に高リスクの児童生徒」を発見するための対策です。

ポイントは、

SOSのサインが出る前から
「危険因子」でリスクを評価する

自殺した児童生徒の約半数は、原因・動機が「不詳」とされています。

つまり、悩みを抱えている様子が周囲から十分に気づかれないまま、亡くなっているケースが少なくありません。

そのため、SOSのサインがはっきりと現れる前から、

「自殺の危険因子」という視点でリスクを捉えることが、大切な予防の一つになります。

(2)厚生労働省の資料にみられる危険因子

先ほど紹介した文部科学省の資料に加えて、

厚生労働省「ゲートキーパー養成研修用テキスト」(第3版)では、次のような危険因子も示されています。

  • 自傷行為
  • ソーシャルサポートの欠如(支援者がいない)
  • 自殺企図手段への容易なアクセス

引用「4 自殺の危険因子と防御因子」

文部科学省の資料は、自殺未遂の説明で「自傷行為」に触れています

ここで特に注目したいのが、「ソーシャルサポートの欠如」です。

これは、単に支援してくれる人がいない場合だけでなく、本人が周囲の支援を受け取ろうとしない場合も含まれます

たとえば、助けを求めない甘えない弱音を吐かない

こうした姿勢は、一見すると「しっかりしている」と評価されがちです。

しかし見方を変えると、誰にも頼れず、一人で抱え込んでいる状態とも言えます。

実際、いわゆる「ノーマークの子」が多く自殺で亡くなっていることが、

専門機関(NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」)から報告されています。

多くの場合、自殺の危険因子は「生きづらさ」のサインとして現れます。

そのため、「しんどい?」「疲れている?」「何か抱えている?」と想像することが大切です。

そして、教師がふと感じる「もしかしたら危ないのかもしれない」という直感に、

研究に基づいた根拠を与えてくれるのが、「自殺の危険因子」です。

「自殺の危険因子」は
教師の直感に根拠を与える

(3)文部科学省+厚生労働省 10の危険因子

ここまで紹介した内容を、参照しやすいように整理します。

自殺の危険因子(文部科学省+厚生労働省)

  • 自殺未遂
  • 心の病
  • 安心感のもてない家庭環境
  • 独特の性格傾向(極端な完全主義、二者択一思考、衝動性など)
  • 喪失体験(離別、死別、失恋、病気、怪我、急激な学力低下、予想外の失敗など)
  • 孤立感(とくに友だちとのあつれき、いじめなど)
  • 安全や健康を守れない傾向(最近、事故や怪我を繰り返す)
  • 自傷行為
  • ソーシャルサポートの欠如(支援者がいない)
  • 自殺企図手段への容易なアクセス

「自殺の危険因子」に関する数値

いくつかの調査や研究からも、これらの因子と自殺リスクの関連が示されています。

  • 小中高生の2022〜2023年の分析では、過去に自殺未遂歴があった自殺者のうち、自殺未遂が1年以内であった場合が過半数を占めた。女子小学生や女子高校生は、過去の自殺未遂が1か月以内だった自殺者の割合が高い。(1)
  • 2024年の自殺者20,320人のうち、原因・動機「病気の悩み・影響(うつ病)」は4,245人で、健康問題の中で最も多い。(2)
  • 2001年の調査研究では、異性愛ではない男性は、異性愛の男性より、自殺未遂率が5.98倍。(3)
  • メタ解析によると、10代に自傷経験があると、10年後の自殺による死亡率が400〜600倍高い。(4)

(1)厚生労働省「令和6年度自殺対策白書」

(2)警察庁「令和6年中における自殺の状況」

(3)Hidaka Y, Operario D, Takenaka M, Omori S, Ichikawa S and Shirasaka T. (2008). Attempted suicide and associated risk factors among youth in urban Japan. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology: 43, 752-757.

(4)Owens, D., Horrocks, J., & House, A. (2002). Fatal and non-fatal repetition of self-harm: Systematic review. British Journal of Psychiatry, 181, 193-199.

3 児童生徒の自殺の原因・動機

児童生徒の自殺は、原因や動機の特定が難しく、統計上もおよそ半数は原因が特定されていません。

それでも、特定された事例の傾向を知ることは、

児童生徒がどのような状況で追い込まれていくのかを想像する手がかりとなります。

ここでは、警察庁の「自殺統計」(平成21〜30年の累計)をもとに、厚生労働省が分析したデータ(令和元年度自殺対策白書)を参考に、その傾向を整理します。

自殺の多くは多様かつ複合的な原因及び背景を有しており、様々な要因が連鎖する中で起きています

親子関係の不和(38.1%)
家族からのしつけ・叱責(33.3%)
その他学友との不和(14.3%)

小学生の特徴は「しつけ・叱責」や「親子関係の不和」など「家庭問題」の比率が高い

親子関係の不和(20.1%)
その他学友との不和(18.3%)
学業不振(14.0%)

中学生の特徴は「家庭問題」に加えて、「学業不振」や「学友との不和」など「学校問題」が高い

うつ病(18.3%)
その他の精神疾患(12.1%)
その他進路に関する悩み(11.8%)

高校生の特徴は、中学生と同様に「進路に関する悩み」や「学業不振」など「学校問題」の比率が高く
うつ病や統合失調症などの精神疾患に関する「健康問題」が、女子を中心に急増する

2024年の小・中・高校生の自殺者(厚生労働省)は、女子(290人)が男子(239人)を初めて上回ったという特徴が報告されています。特に、中学生・高校生の女子の増加が目立っています

自殺のリスクを最もよく知っているのは、言うまでもなく本人自身です。

本人が言葉にするまで、周囲の大人は状況を完全に理解することはできません。

だから、私たちにできるのは、

想像すること、気にかけること、そして変化に目を向けることです。

児童生徒の表情や言葉、日常の小さな変化から、

「もしかしてつらいのではないか」と思いを巡らせること。

それが、自殺予防の出発点になります。

まとめ

  • 「自殺の危険因子」を活用することで、潜在的な自殺リスクを中長期的な視点から捉えることできる
  • SOSのサインが出る前から、リスクを評価していくことが重要
  • 危険因子は、教師が感じる「もしかしたら危ないのかもしれない」という直感に根拠を与える
  • 危険因子や統計データは、児童生徒が抱えている生きづらさを想像する手がかりになる

こうした統計や調査の背景には、故人の家族や友人等のご協力があったことも、想像していただきたいと思います

\ 次回は、相談を受けたときのリスク評価
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もしも「死にたい」と言われたらー自殺リスクの評価と対応ー 中外医学社 松本俊彦

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