文部科学省が提唱する「個別最適な学び」と重なる概念として、
近年注目を集めているのが、UDL(学びのユニバーサルデザイン)です。
本コラムでは、UDLの基本的な考え方を紹介し、学習環境の在り方について考えます。
本稿では、UDLの専門用語は可能な限り使用しません。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 UDLとは
英語で、Universal Design for Learning.
日本語訳は「学びのユニバーサルデザイン」です。
アメリカの研究機関 CAST(キャスト)が提唱した概念であり、
「すべての児童生徒にとって学びやすい授業」をデザインするための考え方です。
ただし、UDLが目指すのは、単に「困らない環境を整えること」ではありません。
その中心にあるのは、
学習者が自分の学びを舵取り
できるように
学習環境をデザインする
では、その具体像を見ていきましょう。
(1)自分の学びを舵取りできる
UDLにおける「学びの舵取り」とは、
学ぶ方法の選択肢の中から、目的に応じて自分に最適な方法を選び、主体的に学ぶことができる状態を指します。
一般的な授業では、
教師が学び方を一律に指定する場面が少なくありません。
例えば、「ノートに書きましょう」といった指示です。
一方、UDLでは、
まず教師が「何を学ぶのか」「なぜ学ぶのか」を明確に示します。
そのうえで、「どのように学ぶか」は児童生徒自身が選択し、調整しながら学習を進めていきます。
そのため、一人ひとりが異なる方法で学びを進めることになります。
例えば、「ノートに書く」「キーボードで入力する」「カメラから入力する」などです。
児童生徒は、自分にとって「学ぶことができる」「学習しやすい」方法を自ら考え、選択します。
この考え方は、教師にとって大きな視点の転換を促します。
「教師がどう教えるか」ではなく
「児童生徒が自らどう学ぶか」
UDLにおいて、教師の姿勢は「指導者」から「伴走者」へと変化します。
まずは、教師がこのようなマインド(考え方・信念)をもつことが、UDL実践の基盤となります。
(2)学習環境をデザインする
児童生徒が自ら学び方を選択するためには、あらかじめ「選択肢」が用意されている必要があります。
例えば、次のような学習の姿が考えられます。
- 同じ内容を学ぶ際に、教科書、音声、動画など、自分に合った方法を選ぶ。
- 社会の地域学習で、歴史・食文化・地理など、興味に応じてテーマを選ぶ。
- 数学の演習で、必要に応じて「ヒントシート」を取りに行ったり、他者と協力したりする。
- 自分の考えを表現する際に、手書き、キーボード入力、スライド制作などを使い分ける。
これらの選択肢は、障害の有無にかかわらず、
「読む・書くことの苦手さ」や「意欲の維持の難しさ」に対する支援として機能します。
教師は、授業が始まる前に、授業の中にあるバリアを見つけ出し、それを乗り越えるための選択肢を用意します。
後づけではなく、あらかじめ用意されていることにより、児童生徒は「自分で選ぶ」ことが可能になります。
大切なのは、
「みんな同じ方法」ではなく
自分に合った方法を自ら選ぶこと
その結果、児童生徒はそれぞれの「できる方法」「やりやすい方法」をもとに、主体的に学習へと向かっていきます。
<参考>
CASTのUDLガイドライン
UDLを実践するためには、UDLガイドライン(全文)の理解が不可欠です。
その全体像を簡単に確認するツールとして、次のような図表が示されています。
横軸にはUDLの三原則(「取り組み」「提示(理解)」「行動と表現」)、縦軸には学習者の成長段階(下に行くほど成熟)を配置されており、学習環境をデザインする際の具体的な観点が整理されています。

引用:UDLラボ
詳しくは、北海道教育大学未来の学び協創センターUDLラボの資料をご参照ください。
本コラムは、UDLラボの資料を参考に、専門性を保ちながら教職員にとって理解しやすい表現で再構成しています。

2 授業UDとUDLの違い
どちらも「ユニバーサルデザイン」という言葉を用いるため、同じものとして捉えられがちです。
しかし、この二つは本質的に異なる考え方に立っています。
| 観点 | 授業UD(授業のユニバーサルデザイン) | UDL(学びのユニバーサルデザイン) |
|---|---|---|
| ゴール | 学びやすい授業 | 学習者の成熟 |
| 方法 | バリアを取り除く | 選択肢を準備する |
| 主な視点 | 教師の視点(教え方) | 児童生徒の視点(学び方) |
| 背景 | 日本、特別支援教育 | 米国CAST、脳科学 |
| 共通点 | すべての児童生徒の学びやすさを重視 | |
| 観点 | 授業UD | UDL |
|---|---|---|
| ゴール | 学びやすい授業 | 学習者の成熟 |
| 方法 | バリアを取り除く | 選択肢を準備する |
| 主な視点 | 教師の視点(教え方) | 児童生徒の視点(学び方) |
| 背景 | 日本、特別支援教育 | 米国CAST、脳科学 |
| 共通点 | すべての児童生徒の学びやすさを重視 | |
重要なのは、「どちらが優れているか」という比較ではありません。
授業UDは、具体的な手立てが明確で、取り組みやすいという特徴があります。
一方、UDLは脳科学を基盤としており、学びに対する捉え方そのものを転換する点に特徴があります。
授業UDが「授業改善」であるとすれば、
UDLは「授業改革」とも言えるでしょう。

3 One-Size-Fits-Allの限界
「全員に一律の方法で対応すること(One-Size-Fits-All)」には、どうしても限界があります。
UDLの重要な概念である「選択肢」の必要性を理解するうえで、示唆に富む事例があります。
トッド・ローズ著『平均思考は捨てなさい』で紹介されているエピソードです。
1940年代の末、ギルバード・S・ダニエルズは、
アメリカ空軍のコックピット設計を任されました。
彼は、4,063人のパイロットの身体データをもとに、
身長・胸囲・腕の長さなど10項目について「平均的な寸法」を算出します。
例えば、平均身長が175cmであれば、170〜180cmを「平均の範囲」と設定しました。
そして、多くのパイロットがこれらすべての項目において「平均の範囲」に収まると予測しました。
しかし、その結果は予想に反するものでした。

10項目すべてが平均の範囲内に収まるパイロットは、一人もいなかったのです。
さらに、項目を10から3に減らしても、該当者は3.5%未満にとどまりました。
つまり、「平均的なパイロット」という存在は、実際にはどこにもいなかったのです。
「平均」を基準に設計した結果、
それは「誰にとっても最適ではない設計」になってしまいました。
この研究を受けて、コックピットには個々の身体に合わせて調整できる機能が導入されるようになります。
この考え方は、現在の自動車の運転席(シート位置やミラー調整など)にもつながっているとされています。
ここで導かれる示唆は明確です。
すべて平均的な人はいないため
平均に合わせたデザインは、誰にも合わないものになる
すべて平均的な人はいないため
平均に合わせたデザインは
誰にも合わないものになる
このことは、教室にもそのまま当てはまります。
児童生徒は、理解の仕方、興味・関心、学び方のスタイルなどが一人ひとり異なります。
そのような中で、「One-Size-Fits-All」の方法で指導することには、やはり限界があると言えるでしょう。

4 本人が選択・調整できるデザイン
ここまで見てきたように、UDLの中核にあるのは「本人が選択・調整する」という考え方です。
このイメージを捉える身近な例として、「フードコート」を思い浮かべてみてください。

フードコートでは、あらかじめ複数の選択肢が用意されており、
利用者はその中から、自分の好みや体調(アレルギーを含む)に応じて、食べたいものを選びます。
そこには、「全員が同じメニューを食べる」ことはありません。
さらに、量を調整したり、組み合わせを変えたりすることも可能です。
その結果、それぞれが自分に合った形で食事を楽しむことができます。
教室における学びも、これと同じように捉えることができます。
あらかじめ複数の学び方が用意されており、児童生徒が自分に合った方法を選び、必要に応じて調整できる。
そのような環境こそが、UDLの目指す学習環境のデザインです。
「みんな同じ」から「自分で選ぶ」へ
「みんな同じ」から
「自分で選ぶ」へ
「選択肢」を無制限に増やす必要はありません。
大切なのは、「児童生徒が学び方を選択する」という視点をもつことです。
そして、日々の授業の中に新たな選択肢を少しずつ取り入れ、柔軟性を高めていくことです。
児童生徒から「この方法ならできる」「この学び方がやりやすい」といった言葉が聞こえたとき、
それは「自らの学びを舵取りする力」が育まれ始めているサインだといえるでしょう。

まとめ
- UDLは、学習者自身が学び方を選択・調整できる力(舵取りする力)を育てることを重視しています
- 授業UDが「教え方の工夫(バリアの除去)」に焦点を当てるのに対し、UDLは「学び方の多様性(選択肢の設計)」に焦点を当てます
- 選択肢を用意して、本人が選択・調整できる学習環境を設計することが、主体的な学びを支える鍵となります
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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