乱暴な言動を繰り返す子、自分の気持ちが話せない子、ほめられると不機嫌になる子・・・
「どうしてだろう?」「理解できない」と、対応に悩むことはありませんか?
こうした児童生徒の行動を理解するために、近年、注目されている視点が「トラウマ」です。
このコラムでは、教職員が知っておきたい「トラウマインフォームドケア」について、具体例を交えながら解説します。
トラウマに関する内容が含まれています。ご不安のある方は、無理をせず、ご自身のペースでゆっくりお読みください。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 トラウマインフォームドケアとは
英語では、Trauma-Informed Care
略して、TIC(ティー・アイ・シー)です。
インフォームドの意味は、「理解している・前提にする」なので、
トラウマインフォームドケアの意味は、
トラウマとその影響を理解した関わり
すべての児童生徒に対して、
「トラウマによる傷つきを抱えているかもしれない」
「トラウマ体験があり、今もその影響が残っているかもしれない」
という視点を持って、指導・支援を行うことです。
また、ここでいうインフォームドの「理解」とは、一部の教職員だけが知っていればよい、というものではありません。
風邪やインフルエンザに関する知識のように、「公衆衛生のレベルで広く周知されている理解」を指します。

2 トラウマとは
(1)トラウマ体験の特徴
トラウマ体験は、
「自分ではどうにもできない」
という圧倒された体験
言葉にすると、「まさか!」「どうしよう?」「何もできない…」といった感覚に近いと思います。
逃げることもできないため、「選択肢を与えられなかった体験」と表現されることもあります。
このような体験は、人が本来もっている安全感や安心感を奪い、他者への信頼感を低下させ、強い無力感を残すなど、
その後の人生や日常生活に、さまざまな影響を及ぼすことがあります。
(2)トラウマ体験となりうる出来事
トラウマ体験の定義には幅があり、大きく二つに分けて考えられています。


まず、狭い意味のトラウマ体験は、
生命の危険、重傷を負う、性的暴力を受ける、長期的・反復的な脅威や恐怖を指します。
例えば、自然災害、大きな事故、性的被害、持続的な虐待・DVなど。
これらは、精神疾患の診断基準(DSM-5-TR、ICD-11)に定められている定義です。
一方、広い意味のトラウマ体験は、
本人にとって身体や感情等に有害で、長期的な影響を与える体験を指します。
例えば、虐待、いじめ、貧困、家族の精神疾患や別離、友人の死など。
日常の中で起こり得る、さまざまな出来事が含まれます。
こうした体験も、広い意味のトラウマ体験(こころのケガ)となり、
認知・心理・身体・行動に影響を残すことが、研究によって明らかになっています。
広い意味のトラウマ体験(こころのケガ)も
さまざまな影響を残す
広い意味のトラウマ体験(こころのケガ)も、さまざまな影響を残す

3 トラウマの影響(前編)
このあと、PTSDの主な症状を示したイラストが表示されます。
狭い意味のトラウマ体験(診断基準の定義)により、
次の症状が1か月以上続き、生活に大きな支障をきたしている場合は、PTSD(心的外傷後ストレス症)と診断されます。
また、広い意味のトラウマ体験(こころのケガ)でも、同様の反応の一部がみられることがあります。
(1)PTSD症状
① 侵入(再体験)症状

- トラウマとなった出来事が、自分の意思とは関係なく頭に浮かぶ
- フラッシュバック(その出来事が、今まさに起きているかのように再体験する)
- 繰り返し悪夢を見る など
本来は無害な刺激が、トラウマを思い出すきっかけ(リマインダー)となることがあります。
また、出来事を思い出していないのに、否定的な感情だけがよみがえってくる場合も少なくありません。
② 回避症状

- トラウマを思い出させる物事(活動、状況、人物)を避ける
- トラウマの出来事を考えたり、話したりするのを避ける など
③ 認知と気分の陰性の変化

- 「自分はダメな人間だ」「誰も信用できない」「この世界は安全じゃない」といった否定的な信念を持つ
- 感情が麻痺したり、物事を思い出せなくなる
- 以前は楽しんでいたことに、興味や関心を持てなくなる
- 気分が沈み、他者から切り離されたような孤立感を持つ
- 幸福感や満足感を感じにくくなる など
④ 覚醒度と反応性の著しい変化

いわゆる「過覚醒(かかくせい)」と呼ばれる状態です。
- イライラしやすく、怒りを爆発させる(「あっち行け」「うるせー」など)
- 過剰な警戒心(「どうして?」「誰が決めた?」と強く反応する)
- 過剰な驚愕反応(小さな音にビクッとするなど)
- 自分を傷つけるような無謀な行動
- 集中力がなくなる、寝付けない など
これらの症状は、日常生活や学習、人間関係に深刻な影響を及ぼすことがあります。

(2)学校で見られる影響
繰り返しになりますが、トラウマ体験があるからといって、すべての人がPTSDを発症するわけではありません。
しかし、医学的な診断がつかない場合でも、
その影響が認知・心理・身体・行動のパターンとして残ることは、決して少なくありません。
学校では、次のような形で現れることがあります。
- ちょっとしたことで怒ったり、叩いたりするなど、興奮状態になりやすい
- 怒っている声や車の音などを極端に怖がり、避けたり固まったりする
- 「バカにされた」「自分はダメだ」など、被害的に物事を捉えやすい
- 教師や他の生徒との距離感が近く、性的なトラブルを起こしやすい
- 自分の気持ちや考えを言葉にできず、原因のはっきりしない体調不良が続く
- 教師からほめられると、なぜか不機嫌になり、反抗的な態度を示したりする
トラウマの影響を受けた人は
自分をほどよい状態に調節しにくくなる
では、学校での具体的なケースを見てみましょう。

4 こんな子はいませんか?(前編)
ケース1:乱暴な子

Aさんは、家庭環境が不安定な中で生活している生徒です。
多動傾向があり、気に入らないことがあると、先生に暴言を言います。
Aさんは、家庭環境が不安定な中で生活している生徒です。
多動傾向があり、気に入らないことがあると、先生に暴言を言います。
トラウマの視点で見ると、
トラウマ体験:
過去に暴言や暴力の被害を受けた
リマインダー:
先生が大きな声を出すと(トラウマを思い起こし)
トラウマ反応:
強い怒りが引き起こされ、先生に暴言を言う
リマインダーは、トラウマ体験を思い出すきっかけ
これは、過度に高まった警戒心にもとづくトラウマ反応である可能性があります。
自己防衛の反応であり、Aさんにとっては、自分のほうが攻撃されたように感じているかもしれません。
トラウマは、それほど人を臆病にさせてしまうことがあります。
乱暴な子は、乱暴されてきた子
発達障害と混同されてしまうことがあります
ケース2:ほめられるとふてくされる子

Bさんは、情緒が不安定な保護者と暮らしている生徒です。
先生がほめると、かえってふてくされるなど、否定的な態度を示します。
Bさんは、情緒が不安定な保護者と暮らしている生徒です。
先生がほめると、かえってふてくされるなど、否定的な態度を示します。
トラウマの視点で見ると、
トラウマ体験:
大人に優しくされるたびに、裏切られてきた
リマインダー:
先生からほめられたり、かまわれたりすると
トラウマ反応:
先生を疑い、反発する態度を示す
これは、他者への不信感や自己否定的な信念、再び傷つくことへの恐怖にもとづくトラウマ反応である可能性があります。
Bさんの中には、「優しい言葉には裏がある」「どうせまた裏切られる」といった否定的な信念があるのかもしれません。
また、「先生は自分のことを分かっていない」「自分は大切に扱われるような人間じゃない」
という思いを、言葉ではなく態度で訴えている可能性もあります。
大切にされなかった子は
大切にされると不安になる

こどものトラウマは、「問題行動」という形で現れることがあります。
そして、その「問題行動」は、こども自身が選んだ結果ではなく、
トラウマによって引き起こされた反応であるということを、心に留めていただけたらと思います。
前編のまとめ
- 児童生徒に見られる一見、理解しがたい行動の背景には、トラウマとその影響が隠れている可能性があります
- トラウマインフォームドケアは、すべての児童生徒に対して、「トラウマによる傷つきを抱えているかもしれない」という視点を持ちながら、指導や支援を行うことです
- 本人の努力不足や性格の問題だと決めつけず、また、すべての原因をトラウマに帰属させるのでもなく、多面的な視点から児童生徒を理解しようとする姿勢こそが、トラウマインフォームドケアの出発点です
後編は、「学校で何ができるのか?」について解説します。
後編はこちら
↓ ↓ ↓

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
PSYCLA サイクラ は、臨床心理学・心理学の理論・技法を、教育現場で活用しやすい形に再構成し、わかりやすい情報として提供しています。

