授業中に私語をやめず、静かにならない。消しゴムを細かく砕いて、教室内で投げ合う。
立ち歩いて、教室から出て行く。先生の指示に反発する。イライラして他の児童生徒を叩く。
このような行動は、なぜ起こるのでしょうか?
その理由を科学的に分析し、効果的な対応策を見つける手法として、応用行動分析(ABA)を紹介します。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 応用行動分析とは
英語で、Applied(応用)Behavior(行動)Analysis(分析)
略して、ABA(エー・ビー・エー)とも呼ばれます。
療育や特別支援教育の分野では、広く知られている心理療法です。
その特徴は、
行動が起こる理由を「行動の前後」に着目して分析する
行動が起こる理由を
「行動の前後」
に着目して分析する

2 ABC分析
次の「ABCフレーム」で分析するため、ABC分析と呼ばれています。


キーワードは、「どんなときに、何をしたら、どうなった」です。
行動(Behavior)だけでなく、直前のきっかけ(Antecedent)、直後の結果(Consequence)に着目し、
観察した姿をフレーム内に記入します。
例えば


適応的な行動の例では


ABCの関係が一つのストーリーになるように、記入します。
ここで大切なのは、
行動(B)して、良いことがある(C)と、その行動は増える
行動(B)して
良いことがある(C)と
その行動は増える
これを「強化」といいます。
例えば


「強化」されることにより、その行動(B)は繰り返されます。
行動の原因が「時間の流れ」と逆なので、少し不思議に感じるかもしれません。
通常、私たちは「原因があって、その後に行動が起こる」と考えます(原因
行動)。たとえば、「ストレスが溜まって、叩いた」「ムカついて、大声を出した」
しかし、応用行動分析では、行動の後に起きたことを原因と考えます(行動 原因)。

3 強化と弱化
直後の結果によって、その行動が増えることを、「強化」と紹介しました。
その逆も、あります。
直後の結果によって、その行動が減ることを「弱化(じゃっか)」と呼びます。
それぞれの例は、


嬉しいこと(先生の笑顔)があっても、嫌なこと(作文)が無くなっても、
良いこと(プラス)なので「強化」されます(その行動は増えます)。


嫌なこと(叱られる)があっても、嬉しいこと(試合でプレー)が無くなっても、
悪いこと(マイナス)なので「弱化」されます(その行動は減ります)。
では、「叱る」「退場させる」によって、気になる行動を減らせばよいのか・・・というと、
多くの方が経験しているように、それだけでは上手くいかず、むしろ別の問題が生じてしまうことも少なくありません。
詳細は、次回の後編で解説します。

4 機能をアセスメントしてみよう!(練習問題)
その行動が「何によって強化されているのか」を分析することは、
言い換えれば、「その行動の機能を理解すること」です。
ここでは、行動の機能をアセスメントする練習問題に取り組んでみましょう。
まずは、次の事例を読んでください。
<事例>
小学5年生の男子児童Rさんは、授業中に大きな声で歌を歌います。
その声は、教室のすべての児童に聞こえるほどの大きさです。
先生は「静かにしなさい」「歌うのをやめなさい」と注意します。
Rさんは一旦歌うのをやめますが、しばらくするとまた歌い始めます。
そのため、先生は授業を中断して、授業中のルールについて話すことになります。
このような行動は3か月以上続いており、先生は疲れを感じています。
周囲の児童の反応はさまざまで、「好きだね〜」「なに、その歌?」と笑う児童もいれば、
ほとんど反応せず授業を受け続ける児童もいます。
なお、Rさんは学習面に苦手さがあり、先生の指導に対して反発するような発言をすることもあります。
では、問題です。
「大きな声で歌う」という行動は、何によって強化されているのでしょうか?
仮説として考えられるものを1〜3つ挙げてみましょう。
「大きな声で歌う」という行動は
何によって強化されているのでしょうか?
仮説として考えられるものを
1〜3つ挙げてみましょう。
ここで、ヒントです。
行動の機能(強化しているもの)は、次の4種類しかないといわれています。


これらのキーワードを参考にして、お考えください。
・・・
では、解答です。
架空事例なので、あくまで可能性ですが・・・


いかがだったでしょうか?
ちなみに、「要求」の機能は見られませんでした。
実際の現場では、行動の直後のRさんや先生、周囲の児童の様子を観察できるため、より正確に絞り込めるかもしれませんし、
先生や周囲の児童の反応から、別の機能が見えてくるかもしれません。
Point
行動の機能は、たった4種類しかありません
- 要求(物や活動が得られる)
「〇〇がほしい」「〇〇したい」 - 注目(他者の注目が得られる)
「自分を見て」「かまってほしい」 - 逃避・回避(嫌なものから離れられる)
「やりたくない」「逃れたい」 - 感覚・刺激(好きな感覚・刺激を得られる)
「心地よい」「落ち着く」
これらの選択肢を知っているだけでも、行動の理由を推測しやすくなると思います。
また、練習問題の解答のように、2〜3つの機能が重なっている場合もあります。
その場合は、最も大きな機能を見立てることが重要です。

5 気になる行動を減らす方法 その1
Rさんの事例で、「大きな声で歌う」という行動を減らす方法について解説します。
今回は、苦手な活動でない場面でも歌うことから、
この行動には「注目」の機能が最も働いていると仮定します。
(1)気になる行動への強化をやめる
先生の注意が、結果的にRさんの行動を強化しているため、まずはその注意を控え、行動への強化を取り除きます。
強化がなくなると、行動はその機能を失い、次第に減少していくことが期待されます。
とはいえ、先生にとって「注意をしない(スルーする)」こと簡単ではありません。
そのため、より現実的な対応として、「適応的な行動を指示する」対応が有効だと考えられます。
「注目」という機能を完全にゼロにすることはできませんが、
落ち着いた口調で「静かに取り組みます」や「今は話を聞きます」といった言葉かけを行うことで、
注目を最小限にしながら、適応的な行動を促すことが可能です。


(2)同じ機能をもった行動を強化する
上記(1)のように、ある行動への強化をやめる場合は、
その代わりとなる適応的な行動を、意図的に強化することが大切です。
対象にする行動は、
同じ機能(注目)が得られる適応的な行動
例えば


これらは、Rさんにとって「注目」を得られて、学校のルールや集団生活の中でも受け入れられる行動です。
このような適応的な行動を強化していくことは、Rさんにとって新しい行動を学ぶ機会となります。
行動の機能ごとに、同じ機能をもった行動の例を挙げると、
行動の機能 | 同じ機能をもった行動例 |
---|---|
要求 | 適応的な方法で他者に対して要求する(言葉、カード等) |
注目 | 適応的な方法で他者からの注目を得るコミュニケーション |
逃避・回避 | 他者に援助を求めたり、休憩を求める |
感覚・刺激 | 同様の感覚が得られる身体への害が少ない刺激 |
行動の機能 | 同じ機能をもった行動例 |
---|---|
要求 | 適応的な方法で他者に対して要求する(言葉、カード等) |
注目 | 適応的な方法で他者からの注目を得るコミュニケーション |
逃避・回避 | 他者に援助を求めたり、休憩を求める |
感覚・刺激 | 同様の感覚が得られる身体への害が少ない刺激 |
授業時間(〇分)は変わらないので、
適応的な行動が増えることで、気になる行動は自然と減少していきます。

(3)長期的な視点から必要な行動を強化する
(1)と(2)によって気になる行動が減少すれば、まずは当面の目標が達成されたといえます。
しかし、Rさんの今後の学校生活や人生の充実を考えると、
より長期的な視点で、身につけてほしい行動にも目を向ける必要があります。
対象にする行動は、
たとえ時間がかかったとしても
獲得が期待される行動
例えば


これらの行動は、すぐに身につくものではないかもしれませんが、
Rさんの行動のレパートリーとして、ぜひ獲得してほしい重要なスキルです。
きっと多くの先生方が、「これが身につけば・・・」と感じられていることでしょう。
先ほどの(2)と並行して、こちらの行動への強化も取り組みをはじめます。
一方で、「すでにほめているけど、変わらない」と感じている先生もいらっしゃるかもしれません。
そんな先生に有効な視点は、
今の「ほめる」が、本当に強化として機能しているか?
今の「ほめる」が
本当に強化として機能しているか?
効果的な強化は、「より確実に、より早く、より大きく・強く」と言われています。
しかし、「ほめる」は単純ではなく、
何でもほめてしまうと軽く受け取られがちですし、大げさすぎるとわざとらしく感じられてしまいます。
まるで、「食リポ」のようです。
その児童生徒に響くように、言葉の選び方、タイミング、言い方などを調整して、
トライアンドエラーを繰り返しながら、児童生徒が笑顔になる瞬間を目指していくことになります。
効果的な「ほめ方」の技術については、今後のコラムでご紹介する予定です。
対応(1)〜(3)をまとめると



人の行動そのものを操作することはできませんが、
行動の直後の反応(環境)は、調整できます。
応用行動分析(ABA)は、この環境を調整することで児童生徒の成長を促す理論・技法です。
まとめ
- 行動が起こる理由は、「写真」として見るのではなく、「ショートムービー」として見る
- 行動した後に、良いことがあると、その行動は増える(強化)
逆に、良いことが無くなったり、悪いことがあると、その行動は減少する(弱化) - 行動の機能(強化しているもの)は、たった4種類しかない
「要求」「注目」「逃避・回避」「感覚・刺激」 - 「どの行動をほめるか」「今の『ほめる』が強化になっているか」を検討することが大切
次回の後編は、気になる行動を減らす方法 その2、ChatGPTの活用などについて解説します。
後編はこちら
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