【困った人は困っている人】児童生徒の問題行動に隠れた「困っている気持ち」とは?(前編)

教育現場では、日々さまざまな問題が起こります。

それらの問題をどう捉えるかによって、児童生徒とのかかわり方や支援の方法は大きく変わってきます

もし、目の前の「行動」にのみ注目すると、その背後に隠れた大切なメッセージを見逃してしまうかもしれません

このコラムを読むことで、問題行動の背景にある「こころの状態」に目を向ける視点を増やすことができます。

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

1 心身に余裕がないとき

次のような状況をイメージしてみてください。

最近、仕事が忙しくて、
まったく余裕がない。

心も体も、疲れを強く感じている。

「イメージしなくても、まさに今その状態です」という声が聞こえてきそうですね・・・(涙)。

そんなお疲れのところ、申し訳ありませんが、次の質問に答えてみてください。

と体に余裕がないとき、こんなことはありませんか?
  • いつも以上に、他の先生や児童生徒にイライラする
  • 家に帰ってから、何もやる気が起きない
  • 普段はしないような間違いやミスをする
  • 物事をネガティブに考えてしまったり、なかなか決められなかったりする
  • 家族に甘えたり、つい言葉遣いが荒くなったりする

・・・

多くの人が経験しており、ごく自然なことです。

人は、心身に余裕がなくなると
イライラしたり、やる気が出なくなったり、少しわがままになったりする

人は、心身に余裕がなくなると
イライラしたり

やる気が出なくなったり
少しわがままになったりする

これは、大人も児童生徒も同じです。

児童生徒の様子に、イライラ、無気力、わがままなどが見られたときは、

もしかして、心や体に余裕がないのかもしれない

と考えてみてください。

特に「どうしてこんなことをするの?」と思ったときこそ、

本人は、何に困っているのだろう?」という視点が大切になります。

問題行動をすぐに指導しようとする前に、少しだけ立ち止まって、

もしかして、何か助けが必要なのかもしれない」と考えてみてください。

投げやりな態度や、指導への反発は、「SOSのサイン」であることも少なくありません。

「SOSのサイン」の詳細はこちら
↓ ↓ ↓

そのことを端的に表している名言が、「困った人は困っている人」です。

重い荷物を持っている人に、最初にかける言葉は、

「荷物が多すぎるよ」「遅れずに歩こう」「体力をつけよう」ではありません。

まずは、「半分、持ちましょうか?」「重かったよね」です。

そのあとに、本人が自分の荷物を整理しようとする姿を、一緒に見守ってください。

2 トラウマという視点

次に大切な視点は、「トラウマ(心の傷)」です。

「トラウマ」と聞くと、自然災害や大きな事故、事件などの衝撃的な出来事を思い浮かべるかもしれませんが

実際には、虐待、性暴力、交通事故、いじめ、家族や友人の死別や別離など

日常の中で起きるさまざまな体験が、トラウマにつながることがあります。

トラウマとは、

「自分ではどうにもできない」という圧倒された体験

それは出来事の「大きさ」や「内容」で決まるものではなく、

その人にとって「神経レベルで圧倒された経験」であるかどうかが、重要となります。

神経レベルでの影響なので、本人の努力不足ではなく、生理的な反応として次のような症状が現れます

トラウマによる症状(PTSD症状)

侵入(再体験)症状思い出したくないのに、思い出してしまう
(例:フラッシュバックや悪夢)
回避症状トラウマに関連する人や場所、状況などを避ける
認知と気分の陰性の変化気持ちが沈む、孤立する、楽しさを感じにくくなる
覚醒度と反応性の著しい変化神経の高ぶりが続く、小さな音にビクッとする、眠れない、怒りっぽくなる
侵入(再体験)症状思い出したくないのに、思い出してしまう(例:フラッシュバックや悪夢)
回避症状トラウマに関連する人や場所、状況などを避ける
認知と気分の陰性の変化気持ちが沈む、孤立する、楽しさを感じにくくなる
覚醒度と反応性の著しい変化神経の高ぶりが続く、小さな音にビクッとする、眠れない、怒りっぽくなる

上記の症状が1か月以上続き、生活に支障をきたしている場合、医学的にPTSDと診断されます

虐待など、トラウマ体験が繰り返される場合には、「複雑性PTSD」と呼ばれる状態になることがあります。

複雑性PTSDの症状

上記のPTSD症状に加えて

感情調整の困難感情の起伏が激しい、あるいは感情が乏しい
否定的な自己概念自分は無価値、恥ずべき存在だ、などの信念
対人関係の困難人との関係が安定せず、信頼や安心感を築くのが難しい
感情調整の困難感情の起伏が激しい、あるいは感情が乏しい
否定的な自己概念自分は無価値、恥ずべき存在だ、などの信念
対人関係の困難人との関係が安定せず、信頼や安心感を築くのが難しい

これらの症状は、学校生活にも大きな影響を及ぼします。

例えば、

  • ちょっとしたことで怒ったり、叩いたりする
  • 怒っている人の声や、車の音などを極端に怖がり、回避する
  • 「バカにされた」「自分はダメだ」など、被害的に物事を捉えやすい
  • 教師や他の生徒との距離感が近く、性的なトラブルを起こしたりする
  • 自分の気持ちや考えをうまく言えず、体調不良が続いているが原因かわからない

ときに、それらの様子が発達障害と混同されることもあります。

児童生徒に、過覚醒、怒りやすさ、感情の麻痺などが見られたときは、

もしかして、トラウマがあるかもしれない

と考えてみてください。

そして、「何が起きているのか?」を理解しようと、話を聴いてみてください

答えを急がず、良い・悪いで判断せず、耳を傾ける態度が、児童生徒にとっての安心感につながります。

なお、何度も話を聴くことで、二次的な被害となる場合もあるので、

必要に応じて、スクールカウンセラーや専門機関(児童相談所や警察等)と連携することも重要です

適切な支援につなげることが、こころの回復への第一歩となります。

3 症状のもつ意味

最後に、「問題行動」の背景に目を向ける視点として「症状のもつ意味」を紹介します。

自閉症研究で知られる児童精神科医 レオ・カナー(L, Kanner)は、

こどもに現れる症状には、主に次のような5つの意味があると述べています。

これは、症状だけでなく、「問題行動」を理解するうえでも役立つ視点です

(1)入場券(チケット)

例えば

  • 腹痛を訴えて保健室に来たが、話をしているうちに家庭の悩みを語りはじめた。
  • 学習の悩みで相談に来たが、実際には友人関係の話が中心だった。

このように、表面的の症状や訴えは、こどもが先生の前に現れるためのきっかけで、

言い換えれば、本人の心の世界に入るための「入場券」のような役割を果たしています。

そのため、表面上の症状だけを取り除くことに意味はあまりなく、その背景に目を向けることが重要です

(2)シグナル(SOSのサイン)

例えば

  • 最近、先生にあまり近づいてこないので気になって面談したら、いじめの被害があった。
  • 「死ね」と暴言を吐いたので丁寧に話を聴いたら、家庭内で虐待を受けていた。

これらは、「今、何かが起きている」というサイン=シグナルです。

身体の「痛み」と似ています。

たとえば、足の痛みを調べたら骨折が見つかるように、心のどこかで問題が起きていることを知らせる働きをしています

(3)安全弁

「安全弁」とは、より深刻な事態を防ぐための”逃し口”のような役割です。

例えば

  • リストカットを繰り返すことで、「死にたいほどのつらさ」を自分なりにやり過ごしている。
  • 長時間ゲームに熱中することで、現実の苦しさから自分のこころを守っている。

このように、その行動があるからこそ、より深刻な状況を回避できているという見方もできます。

本人が自分を守るためにとっている対処である場合も多く、

一方的に否定することはできません

(4)問題解決の手段

例えば

  • 警察に補導されるような行動を通して、実は両親の不仲を解決しようとしている。
  • 授業中に騒ぐことで、勉強が苦手であることを見せないようにしている。

これは、本人なりの「問題を解決する手段」としての行動です。

適応的なものもあれば、不適応的なものもありますが、

本人にとっては「今できる唯一の解決策」であることも少なくありません。

(5)厄介者

症状は、しばしば周囲にとって「困りごと」や「迷惑」と受け取られがちです。

また、周囲が適切に対応できない場合、その役割を果たすために、症状がより強くなることもあります

表面に見える「行動」は、わかりやすいものですが、

その「行動」が伝えようとしている「メッセージ」は、とてもわかりにくいものです。

だから、それを理解しようと向き合うことは、簡単ではなく、苦しさを伴う作業でもあります。

それでも、「理解しよう」と向き合う先生の姿勢そのものが、

児童生徒にとって、大きな「返答のメッセージ」になるかもしれません。

ーー「あなたの気持ちを知りたい」

とても強くて優しいメッセージです。

まとめ

  • 児童生徒の「困った行動」に直面したときは、「本人は何に困っているのだろう?」「もしかして、何か助けが必要なのかもしれない」と想像してみる
  • 「困った行動」の背景には、ときにトラウマによる影響が隠れている場合がある
    トラウマの可能性に気づいたときは、「何が起きているか?」を理解しようと話を聴いてみる
  • 問題行動の奥にある「本人なりの理由」や「隠れた事情」を想像し、目を向けてみる

関連書籍のご案内
子どもと生きる 創元社 河合隼雄(編)
今すぐできる心の守りかたーフラッシュバック・ケアー KADOKAWA 服部信子

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

PSYCLA サイクラ は、臨床心理学・心理学の理論・技法を、教育現場で活用しやすい形に再構成し、わかりやすい情報として提供しています。

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